婚姻費用を払わない相手には:取り決めの形別に使える手段と子の分の先取特権
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決まった婚姻費用が払われないときは、取り決めの形で使える手段が変わります。調停調書や審判があれば、家庭裁判所の履行勧告と、地方裁判所への給料・預貯金の差押え(債権執行)が使えます。公正証書がある場合は差押えが使え、履行勧告は使えません。子の生活費を含む合意があれば、先取特権に基づく担保権実行という優先的な取立ての手段もあります。口約束だけの場合は、先に調停で取り決めを作る必要があります。
取り決めの形で、使える手段が決まる
| 取り決めの形 | 履行勧告 | 債権執行(差押え) | 担保権実行(子の費用部分) |
|---|---|---|---|
| 調停調書・審判 | 使える(無料、強制力なし) | 使える | 使える(子の監護費用を含む場合) |
| 公正証書 | 使えない | 使える(執行文が必要) | 使える(子の監護費用を含む場合) |
| 当事者間の合意書面のみ | 使えない | 使えない | 使える(子の監護費用を含む場合) |
| 口約束・取り決めなし | 使えない | 使えない | 使えない。先に調停を申し立てる |
表のうち、合意書面だけで担保権実行ができる点は、令和8年(2026年)4月1日以降に発生した分に限られる手続です。裁判所のQ&Aは、子の監護に要する標準的な費用(月額8万円に子の人数を乗じた額まで)について先取特権が認められるため、裁判所の手続や公正証書がなくても、当事者間の合意書面があれば担保権実行(差押え)ができると説明しています。
払われなくなったときに最初に送る連絡:事実と期限だけを書く
差押えの前に、払われていない事実を相手に書面で示しておくと、履行勧告や申立ての準備に使えます。文面は、感情を入れず、取り決めの根拠・未払いの月と額・支払期限だけにします。
文例:「令和○年○月○日の調停調書で定めた婚姻費用(月○万円、毎月○日払い)について、○月分から○月分までの合計○万円が支払われていません。○月○日までにお支払いください。お支払いがない場合は、家庭裁判所への履行勧告の申出や、強制執行の手続を検討します。」
LINEやメールでも日付が残ります。相手の勤務先や親族へ連絡して取り立てる方法は、名誉毀損や脅迫の問題に発展するおそれがあるため、使わないでください。
まず履行勧告:無料で、強制力はない
履行勧告は、家庭裁判所が、調停や審判で決められたとおりに支払わない人に対して、必要な調査をしたうえで支払を促す制度です。申出は取り決めをした家庭裁判所に、書面・口頭・電話でできて、費用はかかりません。相手が応じなくても、履行を強制することはできません。
婚姻費用の取り決めに関しては、裁判所が義務の履行状況を調べ、勧告し、銀行や使用者などに預金・収入について報告を求めることもできると家事事件手続法289条が定めています。また、290条の履行命令(相当の期限を定めて履行を命じる審判)は、従わないと10万円以下の過料の対象です。令和7年(2025年)の司法統計では、履行勧告が12,604件、履行命令が86件でした。履行命令は件数が少なく、使われる場面は限られています。
履行勧告は、強制執行の前の穏やかな一手として使えますが、払われる保証のある手段ではありません。滞納が続くなら、差押えに進むかどうかを判断します。
差押え(債権執行)に進むとき:手順は養育費の記事を正本にする
債務名義(調停調書・審判書など)があれば、相手の住所地の地方裁判所へ申し立てて、給料や預貯金を差し押さえられます。婚姻費用に固有の点は3つです。
- 給料の上限:婚姻費用も扶養義務等に係る債権として、手取額の2分の1が上限になります(民事執行法152条3項)。慰謝料などの一般債権は4分の1です。
- 将来分:民事執行法151条の2により、給料のように継続して支払われる債権なら、期限が来ていない分も差押えを始められます。
- 債務名義の種類で執行文の要否が違う:家事調停調書は原則不要、家事審判書は確定証明書が必要、公正証書は執行文が必要です(裁判所の案内)。
書類の一覧、手数料4,000円、差押命令が債務者に送達されてから1週間後に取り立てられるようになるまでの流れは、養育費と同じ手続です。養育費の強制執行の流れ:給与の差押えの手続きと必要な書類の一覧を見てください。
相手の財産が分からないとき
勤め先や預金口座が分からないと、差押えの対象を書けません。養育費などの定期金債権には、財産開示手続を申し立てると給与債権の差押命令の申立てをしたものとみなされるワンストップ執行手続があります。婚姻費用で使えるかどうかは、裁判所の養育費等の民事執行手続のページで流れを確かめてから手続を選びます。仕組みは養育費の強制執行の流れの該当節にまとめています。
子の生活費を含む場合:担保権実行
取り決めに子の監護費用が含まれている場合、民法308条の2の先取特権に基づいて、月8万円に子の数を乗じた額を上限に、他の債権者より優先して回収できます。取り決めた額がこの上限を超える場合は、超えた部分を債務名義に基づく強制執行で請求でき、両方を同時に申し立てることもできます。担保権実行は、子の監護費用が含まれていないと申立てできません。
減額を求められたときと、離婚が決まったとき
払う側から「収入が減ったので減額してほしい」と言われたときも、決まった額は、変更の合意か、調停調書・審判で変更されるまで取り決めのままです。払う側が一方的に減らして払うと、差額が未払いとして残ります。
婚姻費用の分担に関する処分は、家事事件手続法の別表第二の2の項(民法760条)に載る事件で、話し合いがまとまらなければ調停や審判を申し立てられます。すでに審判で決まっている場合も、家庭裁判所は審判後に不当と認めるときは取消し・変更できると同法78条1項が定めます(確定から5年を過ぎると、事情の変更によるときだけ)。変更を求める申立ての具体的な方法は、決めた家庭裁判所の手続案内で確かめます。減額を求められたときの順番は次のとおりです。
- 減額の理由が分かる資料(源泉徴収票、給与明細など)を、相手に出してもらう
- 合意するなら、変更後の額と開始時期を書面にする
- 合意できないなら、変更を求める調停の申立てを手続案内で確かめる
払われないまま離婚が決まったら
婚姻費用は離婚の成立までの生活費で、離婚後は養育費の問題に切り替わります(婚姻費用はいつまで?離婚の成立や同居の再開で終わる場合)。未払い分があるまま離婚の合意書を作ると、清算条項の書き方で未払い分が含まれるかが変わるため、合意の前に未払いの月と額を書き出しておきます。
調停の申立て手順は婚姻費用の分担請求調停:申立ての方法・費用1,200円・必要書類と当日の流れと同じ流れです。離婚全体のお金の位置づけは浮気が原因の離婚とお金で確かめられます。
よくある質問
Q. 給料を差し押さえると、相手の勤め先に知られますか?
知られます。裁判所の案内では、差押命令は債務者(払わない人)と、給料を支払う勤務先などの第三債務者に送達され、差押えの効力は第三債務者に送達された時点で生じます。相手との関係や子どもへの影響を考えて申立ての時期を検討するなら、手続の前に弁護士に相談する選択肢があります。
Q. 相手が自己破産をしたら、決まった婚姻費用はなくなりますか?
破産法253条1項4号ロは、民法760条の婚姻費用の分担の義務に係る請求権を、免責許可の決定が確定しても責任を免れない請求権に挙げています。ここに書かれているのは婚姻費用の請求権が免責の例外に入っているという条文の事実で、実際の進み方は破産手続の内容で変わります。
Q. 公正証書で決めた婚姻費用が払われないとき、履行勧告を使えますか?
使えません。履行勧告は、家庭裁判所の調停・審判・人事訴訟で定められた事項が対象で、公正証書など当事者間の合意で決めた取り決めは申出ができないと、裁判所は案内しています。公正証書は、強制執行の手続(地方裁判所への申立て)で使います。
出典・参考にした公的な情報
- 婚姻費用分担金に基づく差押え(裁判所)
- 債権執行(養育費等に基づく差押え)(裁判所)
- 履行勧告(裁判所)
- 家事事件Q&A(強制執行・担保権実行・履行勧告・審判)(裁判所)
- 民事執行法 第151条の2・第152条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 家事事件手続法 第78条・第289条・第290条・別表第二(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 破産法 第253条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 司法統計年報(家事編)令和7年(第55表・第56表)(裁判所)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。