浮気の誓約書を公正証書にできる?公証役場でできること・できないこと
この記事のもくじ
浮気の誓約書のうち、慰謝料や違約金といったお金の支払いの部分は公正証書にでき、「支払わないときは直ちに強制執行に服する」という陳述を入れれば、裁判を経ずに強制執行できる書面(執行証書)になります(民事執行法22条5号)。反対に、接触しない・謝るといったお金以外の約束は、公正証書にしてもそれ自体を強制執行することはできません。また、公証人は法令に違反する内容や無効な内容の公正証書を作れないため(公証人法26条)、行き過ぎた条項は書き直しを求められます。公正証書は当事者の合意を書面にするものなので、相手が手続きに応じることが前提です。
浮気の誓約書を公正証書にするとき:できること・できないこと
誓約書の条項を、公正証書にできるかどうかと、強制執行できるかどうかに分けて整理しました。強制執行できるのは、民事執行法22条5号が定める「金銭の一定の額の支払」などについて、債務者が直ちに強制執行に服する旨を述べた公正証書に限られます。
| 誓約書の内容 | 公正証書にできるか | 強制執行できるか |
|---|---|---|
| 慰謝料を一括で支払う | できる | 強制執行認諾の文言があればできる |
| 慰謝料を分割で支払う | できる | 同上。各回の金額と支払日を特定して書く |
| 「接触したら違約金○円」 | 書き方を公証人と相談 | 違反という事実が起きたことを文書で証明できれば、その執行文を得て強制執行する流れになる |
| 関係を断つ・接触しない | 合意の記録としては書ける | できない(金銭の支払いではない) |
| 謝罪する | 合意の記録としては書ける | できない |
| 極端に高い違約金、生活を過度に縛る約束 | 公序良俗(民法90条)に反し無効と判断されれば作れない | ― |
| 「次に浮気したら離婚する」 | 公正証書を作っても離婚は成立しない(協議離婚は離婚届の受理で成立) | ― |
「接触したら違約金」のように、ある出来事が起きたときに支払う約束は、強制執行の前に、その出来事が起きたことを債権者が文書で証明する必要があります(民事執行法27条1項、日本公証人連合会「執行文付与申立て」Q6・Q7)。違反の事実を文書で示せるかが実際の分かれ目になるので、条項を作る段階で公証人や弁護士に相談しておくと安心です。
公証役場で公正証書を作る流れ
公証役場での手続きは、おおむね次の順番で進みます。公証業務に関する相談は無料です(日本公証人連合会「手数料」Q1)。
- 当事者で内容に合意する:誰が誰に、いくらを、いつまでに、どう支払うか。接触しない約束を入れるなら、その範囲も決めます。
- 公証役場に相談・予約する:近くの公証役場に連絡し、誓約書の文案や合意の内容を伝えます。
- 文案をやり取りする:公証人が条項の文言を整えます。法令に反する内容や無効な内容は書けないので、直しを求められることがあります。
- 必要書類をそろえる:本人確認は、印鑑登録証明書と実印、運転免許証と認印、マイナンバーカードと認印などのいずれかで行います。印鑑登録証明書などは発行後3か月以内のものに限られます。代理人が行くときは、代理の範囲を書き本人の実印を押した委任状と、本人の印鑑登録証明書が要ります。
- 作成の日に内容を確かめて電子サインをする:2025年10月1日から、公正証書は原則として電子データ(PDF)で作られ、列席者はパソコン上でタッチペンを使って電子サインをします。紙か電子かを選ぶことは原則としてできません。
- 手数料を払い、正本・謄本を受け取る:手数料は原則として正本などを交付するときに、現金かクレジットカードで払います。正本・謄本は紙でも電子データでも受け取れます。
公証役場に行かずにウェブ会議で作る方法(リモート方式)は、①嘱託人の申出、②他の嘱託人に異議がないこと、③公証人が相当と認めること、がすべてそろった場合に限られます。パソコン・カメラ・マイク・タッチ入力できる画面などが必要で、タブレット型PCやスマートフォンは使えません。浮気相手と同じ部屋にいたくない、という事情があるなら、早めに公証人に相談してください。
公正証書の費用の目安(2025年10月改定後)
公正証書の手数料は公証人手数料令で決まっていて、2025年10月1日に改定されています。民間の解説には改定前の古い表が残っているので注意してください。法律行為の公正証書の基本の手数料は、目的の価額(その約束で動く金額)で決まります(手数料令9条・別表)。
| 目的の価額 | 手数料 |
|---|---|
| 50万円以下 | 3,000円 |
| 50万円を超え100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円を超え500万円以下 | 13,000円 |
| 500万円を超え1,000万円以下 | 20,000円 |
たとえば、慰謝料150万円を一括で支払う約束を公正証書にする場合、目的の価額は100万円を超え200万円以下に当たるので、基本の手数料は7,000円です(筆者の計算。最終額は公証役場の見積もりで確かめてください)。
基本の手数料のほかに、次のような費用がかかることがあります。
- 枚数の加算:電子データで作る公正証書は、出力した書面が3枚を超えると、1枚ごとに300円が加わります(手数料令25条2項)。
- 正本・謄本の交付:紙で受け取ると1枚300円、電子データで受け取ると1件2,500円です(手数料令40条・40条の2)。
- 違約金の扱い:主な約束に附帯する違約金や損害賠償は、目的の価額に算入しません(手数料令15条)。
当事者が2人以上で嘱託したときは、手数料の支払い義務は連帯になります(手数料令2条)。どちらが負担するかは当事者で決めてかまいませんが、公証役場に対しては双方が支払う立場にあります。
公正証書のほかに使える公証役場の方法
公正証書まではいらない、あるいは相手がそこまで応じない、という場合には、公証役場で次の方法も使えます。
| 方法 | 何が証明されるか | 手数料 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 公正証書(強制執行認諾つき) | 合意の内容。金銭の支払いは強制執行できる | 目的の価額による(上の表) | 慰謝料・違約金の支払いを確かにしたい |
| 私署証書の認証 | 署名や押印が本人のものであること。文書が本人の意思で作られたと推定される | 原則11,000円(公正証書にした場合の手数料の半額が下回るときはその額。手数料令34条) | 誓約書を手書きのまま残しつつ、署名の真正をはっきりさせたい |
| 確定日付 | その日にその文書が存在していたこと | 1件700円 | 念書や誓約書の作成日を争われないようにしたい |
私署証書の認証も、文書の中身が本当かどうかまでは証明しません。ただ、公証人は認証の前に文書の内容が違法・無効なものでないかを審査するので(日本公証人連合会「私署証書の認証」Q10)、行き過ぎた条項があれば指摘を受けます。確定日付のつけ方は浮気の念書と誓約書の違い:書いてもらう内容と保管のしかたで扱っています。慰謝料の額まで決めた示談書を公正証書にする流れは、不倫の示談書を公正証書にするメリットと公証役場での流れを参考にしてください。
公正証書にした約束が守られなかったとき
強制執行認諾つきの公正証書で、支払いが止まったときは、裁判所に強制執行を申し立てます。日本公証人連合会の説明では、必要書類は原則として、執行文の付された公正証書の正本と、公正証書の謄本の送達証明書です。
- 執行文:公正証書を作った公証人に申し立てて付けてもらいます。手数料は2,000円で、違反という事実の到来を条件とする執行文などは2,000円が加算されます(手数料令38条)。
- 正本をなくしたとき:原本は公証人のもとに保存されているので、作成した公証役場に正本の交付を請求できます(公証人法44条)。
強制執行の具体的な手続きは決まった慰謝料が支払われないとき:強制執行の仕組みと必要な書面で扱います。接触しない約束が破られた場合のように、強制執行できない約束の違反については、浮気の誓約書に違反されたらで整理しています。書面の効力そのものに不安があるときは浮気の誓約書に効力はある?、発覚から書面までの全体の流れは浮気が発覚したらすることを見てください。
よくある質問
Q. 浮気相手が公証役場に来てくれない場合でも、公正証書は作れますか?
公正証書は当事者の合意を公証人が書面にするものなので、相手が手続きに応じなければ作れません。相手が出向けないだけなら、委任状を持った代理人による手続きや、条件がそろえばウェブ会議での作成という方法があります。ただし、1人が双方の代理人を兼ねることは原則としてできないので、こちらの知人に相手の代理を頼む形はとれません。
Q. 公正証書にすれば、誓約書の約束は全部守られるようになりますか?
公正証書にしても、相手の行動そのものを縛れるようになるわけではありません。強制執行できるのは、一定額の金銭の支払いなどについて、強制執行に服する旨の陳述が書かれている部分に限られます。接触しない約束や謝罪は、公正証書にしてもそれ自体を強制執行することはできず、破られたときは違約金や慰謝料の請求、離婚の判断といった別の手段で考えることになります。
Q. 浮気の誓約書の公正証書のテンプレートを持っていけば、すぐ作ってもらえますか?
文案を持っていくと相談は進めやすくなりますが、そのまま公正証書になるとは限りません。公証人は法令に違反する内容や無効な内容の公正証書を作れないので(公証人法26条)、条項の書き直しを求められることがあります。予約、文案のやり取り、作成日の決定という順番になるので、急ぐ事情があれば最初の相談で伝えておきます。
出典・参考にした公的な情報
- 公証人法 第26条(法令に違反する事項等の制限)・第44条(正本等の交付)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民事執行法 第22条第5号(執行証書)・第27条第1項(事実到来の執行文)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 公証人手数料令 第2条・第4条・第9条・別表・第15条・第25条・第34条・第38条・第40条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 公正証書(Q1〜Q9 執行証書・代理・デジタル化・リモート方式)(日本公証人連合会)
- 必要書類(日本公証人連合会)
- 手数料(Q1 支払方法・相談は無料)(日本公証人連合会)
- 執行文付与申立て(Q1〜Q7)(日本公証人連合会)
- 私署証書の認証(Q2・Q3・Q10)(日本公証人連合会)
- 民法 第90条(公序良俗)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。