不倫の示談書を公正証書にするメリットと公証役場での流れ
不倫の示談書を公正証書にする最大のメリットは、示談金の支払いが止まったときに、裁判をしなくても強制執行に進めることです。示談金の額と支払いの約束に、「支払わないときは直ちに強制執行に服する」という陳述を入れた公正証書は、民事執行法22条5号の「執行証書」になります。このほか、公証人が作る公文書として証拠の力が強いこと、原本が公証役場に保管されることも利点です。一方で、接触しない約束そのものは公正証書にしても強制執行できず、相手が公証役場の手続きに応じなければ作れません。
示談書を公正証書にすると何が変わるか
当事者だけで作った示談書と、公正証書にした示談書とでは、約束が守られなかったときの動き方が変わります。
| 比べる点 | 当事者が作った示談書 | 公正証書(強制執行認諾つき) |
|---|---|---|
| 支払いが止まったとき | 調停や訴訟で判決などを得てから強制執行 | 執行文をもらい、裁判を経ずに強制執行を申し立てる |
| 証拠としての力 | 署名が本人のものかを争われることがある | 公証人が作る公文書で、反証がない限り完全な証拠力を持つ |
| 原本の保管 | 各自が保管し、なくすと困る | 原本は公証役場に保管され、正本の再交付を請求できる |
| 内容の確かめ | 当事者だけで判断する | 法令に反する内容・無効な内容は作れないので、公証人の目が入る |
| 費用 | かからない | 公証人手数料がかかる |
証拠の力について、日本公証人連合会は、公正証書は公文書として真正に成立したものと強く推定され、反証がない限り完全な証拠力を持つと説明しています(「公正証書」Q1)。これは「公証人の前でその内容に合意した」ことの証明が強いという意味で、不倫の事実そのものが本当かどうかまで保証するものではありません。
原本の保管期間は、公証人法施行規則70条で原則20年とされています。ただし、支払いの期限が決まっている債務の公正証書は、期限が来た翌年から10年が過ぎると保存の対象から外れることがあると定められています。正本は嘱託人が請求すれば交付を受けられるので(公証人法44条)、手元の正本をなくしても作成した公証役場に請求できます。
公正証書にしたほうがよい場面・示談書で足りる場面
すべての示談を公正証書にする必要はありません。次の表で、自分の示談がどちらに近いかを考えます。
| 公正証書を考えたい場面 | 示談書でも足りやすい場面 |
|---|---|
| 示談金を分割で受け取る | 署名の日に一括で受け取りが済む |
| 支払日が数か月先になる | すでに入金を確かめてから署名する |
| 相手が過去に約束を破ったことがある | 金銭の支払いがない(謝罪と接触禁止だけ) |
| 違約金の約束を、強制執行まで見据えて入れたい | 相手が弁護士を立てていて、支払いの段取りが明確 |
分割払いでは、各回の支払日が来た分について強制執行を始められます(民事執行法30条1項)。遅れたときに残りを一括で請求できる「期限の利益の喪失」の条項を入れておくかどうかで、取り立ての範囲が変わるため、分割の決め方は慰謝料の分割払いの決め方:受け取る側・払う側と不払いに備える書面で確かめてください。
公証役場での流れと必要書類
公正証書は、近くの公証役場に相談して予約するところから始まります。相談は無料です。
- 示談の条件を当事者で固める:金額・支払日・振込先・接触禁止・清算など、示談書に書く項目を決めておきます。示談書の案があれば、そのまま持ち込めます。条項の例は不倫の示談書の書き方:入れる条項の例と作るときに気をつけることにまとめています。
- 公証役場に連絡し、文案を送る:電話やメールで予約し、示談の案と当事者の情報を伝えます。公証人が文言を整え、強制執行認諾の文言を入れた案を作ります。
- 案を当事者で読み、直しを伝える:違約金の書き方などで、公証人から修正を求められることがあります。公証人は法令に反する内容や無効な内容の公正証書を作れないためです(公証人法26条)。
- 本人確認の書類をそろえる:本人が行く場合、印鑑登録証明書と実印、運転免許証と認印、マイナンバーカードと認印などのいずれかが要ります。印鑑登録証明書などは発行後3か月以内のものに限られます。代理人が行く場合は、代理の範囲を書いて本人の実印を押した委任状と、本人の印鑑登録証明書が要ります(白紙の委任状は使えません)。
- 作成の日に内容を確認し、電子サインをする:2025年10月1日から、公正証書は原則として電子データで作られ、当事者は画面上で署名します(公証人法36条)。
- 手数料を払い、正本・謄本を受け取る:正本は紙でも電子データでも受け取れます。強制執行に備えて、相手方への謄本の送達も手配しておくと、後の手続きが早く進みます。
支払いが止まったときに強制執行を申し立てるには、原則として、執行文の付いた公正証書の正本と、相手方への謄本の送達証明書が要ると日本公証人連合会は案内しています(「執行文付与申立て」Q1)。執行文は、公正証書を作った公証人に申し立てて付けてもらいます。差押えまでの流れは決まった慰謝料が支払われないとき:強制執行の仕組みと必要な書面で扱います。
費用の目安と調べ方
公証人手数料は公証人手数料令で決まっていて、2025年10月1日に改定されています。示談書の基本の手数料は、その約束で動く金額(目的の価額)によって決まり、たとえば100万円を超え200万円以下なら7,000円、200万円を超え500万円以下なら13,000円です(手数料令9条・別表)。
例として、示談金240万円を分割で支払う約束を公正証書にする場合、目的の価額は200万円を超え500万円以下にあたるので、基本の手数料は13,000円です(筆者の計算。最終額は公証役場の見積もりで確かめてください)。これに、電子データで作る公正証書を出力した枚数が3枚を超える分の加算(1枚300円)や、正本・謄本の交付の費用(紙は1枚300円、電子データは1件2,500円)が加わります。接触したときの違約金のように、主な約束に附帯する違約金は目的の価額に算入しないとされています(手数料令15条)。
手数料は、当事者が2人以上で頼んだ場合は連帯して払う義務を負います(手数料令2条)。どちらが負担するかは示談の中で決めておき、示談書の案にも書いておくと、作成の日にもめません。離婚の公正証書と一緒に作る場合の数え方は離婚の公正証書の費用:公証人手数料の決まり方と必要書類で整理しています。
公正証書にしても強制執行できないこと
公正証書で強制執行できるのは、金銭の一定額の支払いなどを目的とする請求に限られます(民事執行法22条5号)。日本公証人連合会も、金銭以外の財産の給付については公正証書によって強制執行することはできないと説明しています(「離婚」Q26)。会わない・連絡しないといった行為をやめる約束も、この範囲に入りません。不倫の示談では、次の約束がこれにあたります。
- 不倫相手が配偶者と会わない・連絡しないという約束
- 謝罪の約束
- 口外しない約束
これらは公正証書に合意の記録として書くことはできますが、破られたときにその行為をやめさせる強制執行はできません。「接触したら違約金○円を支払う」という形にした場合でも、違反という事実が起きたことを文書で示して執行文を得る必要があり(民事執行法27条1項)、書き方は公証人と相談になります。接触しない約束の決め方は不倫の示談書の接触禁止条項とは?決め方と違反したときの扱い、浮気をした配偶者の誓約書を公正証書にしたい場合は浮気の誓約書を公正証書にできる?公証役場でできること・できないことを参照してください。
よくある質問
Q. 当事者だけで作った示談書を、後から公正証書にすることはできますか?
できます。すでに署名した示談書を文案として公証役場に持ち込み、同じ内容で公正証書を作ってもらう流れになります。ただし公正証書は改めて双方の合意で作るものなので、相手がもう一度手続きに応じることが前提です。示談書の段階で「当事者は本示談の内容を公正証書にすることに協力する」という一文を入れておくと、後で頼みやすくなります。
Q. 公正証書を作るとき、不倫相手と同じ日に公証役場へ行かなければなりませんか?
当事者がそろって嘱託するのが基本ですが、本人の代わりに、委任状を持った代理人が手続きをすることもできます(公証人法32条)。ただ、1人が双方の代理人を兼ねることは一般にできないと日本公証人連合会は説明しています。ウェブ会議での作成は、公証人が相当と認め、ほかの嘱託人に異議がない場合に限られるので、顔を合わせたくない事情は予約の段階で公証役場に伝えます。
出典・参考にした公的な情報
- 民事執行法 第22条第5号(執行証書)・第27条第1項・第30条第1項(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 公証人法 第26条・第28条・第32条・第36条・第37条・第44条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 公証人法施行規則 第70条(書類の保存期間)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 公証人手数料令 第2条・第9条・別表・第15条・第25条・第40条・第40条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 公正証書(Q1 証拠力・Q3 代理・Q4〜Q8 デジタル化とリモート方式)(日本公証人連合会)
- 必要書類(日本公証人連合会)
- 手数料(日本公証人連合会)
- 執行文付与申立て(Q1・Q2)(日本公証人連合会)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。