慰謝料・内容証明・示談 / Q&A

決まった慰謝料が支払われないとき:強制執行の仕組みと必要な書面

この記事のもくじ
  1. 慰謝料の強制執行に必要な書面:手元の書面で分かれる道
  2. 示談書や誓約書しかないとき:先に債務名義をつくる
  3. 強制執行の流れ:債権差押えの申立てから取立てまで
  4. 給料・預金はどこまで差し押さえられる?養育費との違い
  5. 自分で申し立てるか、弁護士に頼むか

決まった慰謝料が払われないとき、強制執行に進めるかどうかは、手元にある書面が「債務名義」に当たるかどうかで決まります。確定判決、裁判の和解調書、調停調書、「支払わないときは強制執行に服する」という文言のある公正証書があれば、裁判を新たに起こさずに給料や預金の差押えを申し立てられます。当事者だけで作った示談書・誓約書・離婚協議書しかない場合は、まず調停や訴訟で債務名義をつくるところから始めます。

慰謝料の強制執行に必要な書面:手元の書面で分かれる道

民事執行法22条は、強制執行は「債務名義」によって行うと定め、その種類を列挙しています。裁判所の民事事件Q&Aも、確定判決、仮執行宣言付判決、仮執行宣言付支払督促、和解調書・民事調停調書、家事調停調書・家事審判書、公正証書などを例に挙げています。公正証書が債務名義になるのは、一定の金額の支払いについて、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述(強制執行認諾文言)が書かれている場合です(22条5号)。

早見表:手元の書面ごとの、強制執行までの距離
手元の書面 そのまま強制執行に使えるか 執行文 次にすること
確定判決・仮執行宣言付判決 使える 必要 判決をした裁判所で執行文と送達証明を受ける
裁判の和解調書・民事調停調書 使える 必要 同上
家事調停調書(離婚調停などで慰謝料を決めた) 使える 慰謝料・解決金を請求するときは必要 調停をした家庭裁判所で執行文と送達証明を受ける
強制執行認諾文言のある公正証書 使える 必要 公証役場で正本・執行文・送達証明を受ける
示談書・誓約書・離婚協議書(当事者だけで作成) 使えない ― 調停・訴訟などで債務名義をつくる
口約束・LINEのやりとりだけ 使えない ― 請求の記録を整え、調停・訴訟を考える

注意したいのが家事調停調書です。裁判所の債権執行の案内では、家事調停調書は原則として執行文が不要とされる一方、家事調停で決められた慰謝料や解決金を請求する場合には執行文が必要と書かれています。離婚調停で慰謝料を決めた人は、この点を見落とさないでください。

示談書や誓約書しかないとき:先に債務名義をつくる

当事者どうしで作った書面は、合意があった証拠にはなりますが、それだけで差押えはできません。払われない場合は、裁判所の手続で債務名義を得ます。

  1. 書面と記録をそろえる。 示談書・誓約書、支払いが止まった時期、催促した記録(日付・方法・相手の返事)を時系列にまとめます。
  2. 書面で支払いを求める。 内容証明郵便などで、いつまでにいくらを払ってほしいかを伝えます。仕組みは内容証明郵便とは何かの記事にあります。
  3. 相手と手続を選ぶ。 離婚した元配偶者との慰謝料なら家庭裁判所の慰謝料請求調停(慰謝料請求調停とは何かの記事)、不倫相手なら地方裁判所・簡易裁判所の民事訴訟(不倫の裁判で訴えるときの流れの記事)が中心です。60万円以下の金銭の支払いだけを求めるなら、簡易裁判所の少額訴訟も使えます(民事訴訟法368条)。
  4. 調停の成立・判決・和解で債務名義を得る。 家事調停で合意が調書に記載されると、確定判決と同一の効力を持ちます(家事事件手続法268条1項)。

これから分割払いの約束をするなら、最初から強制執行認諾文言のある公正証書にしておく方法があります。公証役場での流れは不倫の示談書を公正証書にする記事、分割の決め方は慰謝料の分割払いの決め方の記事で扱っています。

強制執行の流れ:債権差押えの申立てから取立てまで

給料や預金を差し押さえる手続を「債権執行」といいます。裁判所の案内に沿って、順に並べます。

  1. 執行文の付与を受ける。 判決などは事件の記録がある裁判所の裁判所書記官、公正証書は原本を保存する公証人が付与します(民事執行法26条1項)。
  2. 送達証明書を受ける。 強制執行は、債務名義が事前または同時に債務者へ送達されていないと始められません(29条)。証明書は債務名義を作成した裁判所か公証役場で発行されます。
  3. 申立先を確かめる。 原則として、債務者の住所地を管轄する地方裁判所です。
  4. 費用を用意する。 手数料は原則4,000円で、ほかに郵便料がかかります。郵便料は裁判所ごとに違います。
  5. 申立書を出す。 申立書(当事者目録・請求債権目録・差押債権目録)、執行力のある債務名義の正本、送達証明書を出します。謄本では強制執行はできません。相手の住所や氏名が債務名義と違うときは、つながりを示す住民票などが要ります。勤務先や銀行に差押えの対象の有無を回答させたいときは、陳述催告の申立てを同時にします。
  6. 差押命令が出る。 差押命令は債務者と第三債務者(勤務先・銀行など)に送達され、第三債務者に届いた時に差押えの効力が生じます(145条5項)。
  7. 取り立てる。 差押命令が債務者に送達された日から1週間がたつと、債権者は自分で取り立てられます。給料の差押えは、養育費などを請求する場合を除いて4週間です。受け取ったら取立届を裁判所に出します。

裁判所が電子的に作成した債務名義の場合は、事件特定情報を出すことで正本や送達証明書の準備が要らなくなる扱いがあります。自分の書面がどちらに当たるかは、申立先の裁判所の案内で確かめてください。

給料・預金はどこまで差し押さえられる?養育費との違い

慰謝料と養育費では、差し押さえられる範囲や使える手続が違います。養育費の記事や情報をそのまま当てはめないことが大切です。

項目 不倫の慰謝料 養育費・婚姻費用
給料の差押えの範囲 原則として4分の1まで。月給が44万円を超える場合は、33万円を除いた額 2分の1まで(民事執行法152条3項)
まだ期限が来ていない分の差押え できない 一部の不払いがあれば、将来分も給料などから差し押さえられる(151条の2)
勤務先の情報の取得(206条) 使えない 使える
預貯金の情報の取得(207条) 使える 使える
財産開示手続(197条) 使える 使える

給料の4分の3に当たる部分(月払いなら政令で定める33万円が上限)は差押えが禁じられています(152条1項、民事執行法施行令2条)。相手がすでに退職していれば給料の差押えはできず、預金も残高がなければ回収にはつながりません。財産開示手続や預貯金の情報取得は、強制執行や配当で全額を回収できなかったときなどに申し立てられる手続です(197条1項)。どの財産を狙うかで手続と費用が変わるので、申し立てる前に、相手の勤め先・取引銀行について分かっていることを書き出しておきます。

自分で申し立てるか、弁護士に頼むか

債権執行の申立ては本人でもでき、裁判所のウェブサイトには申立書の書式が用意されています。一方で、差押えの対象をどう特定するか、財産開示などの手続をどう組み合わせるかは、経験で差が出やすい部分です。

  • 弁護士:執行文の付与から差押え、財産開示まで、手続全体の代理を頼めます。選び方は不倫慰謝料を弁護士に頼むときの選び方の記事にまとめています。
  • 司法書士:裁判所に出す書類の作成は司法書士の業務です(司法書士法3条1項4号)。ただし、認定司法書士が代理できる簡易裁判所の手続から、強制執行に関する事項は除かれています(司法書士法3条1項6号ただし書。少額訴訟債権執行を除く)。代理を頼むのか書類の作成を頼むのかを、最初に確かめます。

差し押さえようとした相手が自己破産を申し立てた場合は、強制執行が止まったり効力を失ったりします。その場合の流れは不倫の慰謝料と相手の破産の記事を読んでください。慰謝料の請求全体の流れは浮気・不倫の慰謝料とは?請求できる場面・金額の決まり方・進め方の全体像で確かめられます。

よくある質問

Q. 家庭裁判所の調停で決めた慰謝料が払われません。履行勧告は使えますか?

使えます。家庭裁判所の調停・審判・人事訴訟で定めた取決めについて、取決めをした家庭裁判所に書面・口頭・電話で申し出ることができ、費用はかかりません。ただし勧告に強制力はなく、相手が応じなければ差押えなどの強制執行を考えることになります。公正証書など当事者どうしの合意による取決めは、履行勧告の対象外です。

Q. 相手の勤務先が分からないとき、裁判所に調べてもらえますか?

勤務先の情報を市町村や日本年金機構などから得る手続(民事執行法206条)は、養育費・婚姻費用などや、生命・身体の侵害による損害賠償の債務名義を持つ人に限られています。不倫の慰謝料では使えません。慰謝料の場合は、相手に財産を明らかにさせる財産開示手続(197条)や、銀行などから預貯金の情報を得る手続(207条)が選択肢になります。

Q. 公正証書をつくったのに、執行文をもらっていません。どこで手続しますか?

公正証書の原本を保存している公証役場の公証人が、執行文を付与します(民事執行法26条1項)。差押えの申立てには、公正証書の正本(電子でつくられたものは記録事項記載書面)、執行文、相手に送達されたことの証明書が要り、裁判所の案内はこれらを公証役場で受けるよう説明しています。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

不倫の慰謝料と相手の破産:免責されない場合の考え方と確かめること

不倫慰謝料を弁護士に頼むときの選び方:取扱い分野・費用・相談の準備

慰謝料の分割払いの決め方:受け取る側・払う側と不払いに備える書面

浮気・不倫の慰謝料とは?請求できる場面・金額の決まり方・進め方の全体像