親権を父親がとるには:監護の実績と準備しておくことの整理
この記事のもくじ
親権を父親がとれるかどうかは、父親か母親かではなく、子の利益から見て、これまでの養育と今後の環境がどうかで判断されます。民法819条は、離婚後の親権者を父母に対して同じ書きぶりで定めていて、父だから不利とする規定はありません(出生前に離婚した子や、認知した子の親権は、母が行うという例外があります)。「親権は母親が有利」という話の背景は親権の判断で重視される事情の記事で扱います。この記事では、父親の側から見た、見られる事情、準備しておく記録、共同親権や監護者の指定という選択肢を整理します。
見られるのは「これまでの養育」と「これからの環境」
家庭裁判所は、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係、その他一切の事情を考慮します(民法819条7項)。裁判所が公表している聴く事情の一覧は、親権の判断で見られる事情の記事にまとめています。父親の立場で意識したいのは、次の2つです。
- これまでの養育への関わり。 「食事・入浴・寝かしつけ・送迎・通院・学校や園とのやりとり」を、どれだけ担ってきたか。収入を得る役割だけを担ってきた場合でも、これからの暮らしの組み立て方を説明できれば、判断の材料になります。
- これからの環境。 勤務時間と、休暇や時短の使いやすさ、子の世話を手伝ってもらえる家族の有無、住まいと通学の距離、学区です。
次の表は、筆者が整理した「今の働き方」ごとの準備の例です。
| 今の状況 | 先に整えること |
|---|---|
| 帰宅が遅く、平日の世話は妻が中心 | 休日の担当と通院の付き添いを記録に残す。時短・在宅勤務の制度を勤務先に確かめる |
| 平日の世話も分担してきた | 担当を書いたカレンダーや連絡帳のやりとりを日付順にそろえる |
| 近くに頼れる家族がいる | 手伝える曜日と時間、住所を書き出し、本人にも意向を確かめる |
親権の準備として、残しておく記録
準備は、「今から養育に関わる」ことと、「すでに関わった事実を日付つきで残す」ことの2つです。次の表のような記録を、日付と一緒に手元に集めておきます。
| 見せたい点 | 残しておく記録の例 |
|---|---|
| 日々の世話 | 送迎の記録、食事や入浴の担当を書いたカレンダー、子との写真(日付つき) |
| 病気・通院 | 通院の付き添いの記録、母子手帳の予防接種の記録、診察券や領収書 |
| 学校・園とのやりとり | 連絡帳、面談の日程、行事への参加の記録、担任とのメッセージ |
| 働き方 | 勤務時間が分かる書類、休暇や時短の制度の案内、勤務先への相談の記録 |
| 手伝ってくれる人 | 近くに住む家族の住所、手伝える曜日や時間 |
| 経済面 | 収入が分かる書類、住居費、児童手当などの受給状況 |
注意したいのは、相手を貶めるための資料集めにしないことです。相手の悪口や、養育の失敗の指摘に偏った資料は、かえって協力して子を育てる姿勢が疑われます。民法817条の12は、父母が子の人格を尊重し、互いに人格を尊重して協力することを求めています。法務省のQ&Aも、誹謗中傷の繰り返しは、共同して親権を行うことが困難と評価されうると述べています。
別居中・離婚前の動き方:連れて出る前に確かめること
婚姻中は父母の双方が親権者で、子の転居は共同で決める事項です。子を連れて出る、あるいは相手が連れて出た、という場面の考え方は、別居するとき子供をどうする?の記事にまとめています。要点は、次の3つです。
- 暴力や虐待からの避難のように急迫の事情がある場合を除き、無断の転居は、後の親権の判断で考慮されることがあります(法務省Q&A)。
- 相手が先に子を連れて出た場合は、子の引渡しの調停を利用できます。子がどちらの親と暮らすか折り合いがつかないときは、監護者の指定の調停もあります(裁判所Q&A)。
- 実力で連れ戻す前に、家庭裁判所の窓口か弁護士に手続きを確かめます。
妻の浮気が分かった直後に、感情的に動いてしまうのは自然なことです。親権や仕事、お金を考える前の整理の順番は妻の不倫を知った夫への記事に、浮気した側の親権の考え方は浮気した親は親権をとれない?の記事にあります。
共同親権と、監護者の指定:一方に絞らない選択肢
2026年4月の改正後は、親権者を「双方又は一方」から選べます。父親が日々の養育を担いたい場合の選択肢は、次のとおりです。
- 父を単独の親権者とする。 父が親権を行い、母は親権者ではない形です。
- 双方を親権者とし、監護者を父に定める。 親権は共同で行いつつ、監護者となった父は、子の監護・教育や居所の指定などを単独で行えます(民法766条、824条の3)。
- 双方を親権者とし、監護の分担を定める。 法務省のQ&Aは、監護を担当する期間を分けたり、教育に関する事項を一方に委ねたりする「監護の分掌」を示しています。
どれを選ぶかは、子の年齢、父母の連絡の取りやすさ、住まいの距離などによります。共同親権の仕組みは共同親権とは?の記事に、親権全体の説明は親権とは?の記事にあります。
父子家庭になったときの手当と、調停の費用
親権をとった後の生活の見通しも、準備の一つです。児童扶養手当は、平成22年8月から父子家庭にも支給されています(こども家庭庁)。受給するには、住所地の市区町村の窓口で請求し、認定を受ける必要があります。所得制限があり、所得の限度額は2024年11月の改正で引き上げられました(同)。具体的な額は、こども家庭庁の制度概要と、住所地の市区町村のひとり親担当の窓口で確かめられます。
親権を調停で話し合う場合の費用は、夫婦関係調整調停(離婚)の収入印紙1,200円分と連絡用の郵便切手です(裁判所)。弁護士に頼む場合の費用は別にかかるので、見積もりを比べて決めます。弁護士に相談する前には、上の表の記録に加え、子の氏名と生年月日、学校、別居の予定、相手とのやりとりを一枚にまとめて持参してください。
よくある質問
Q. 父親が仕事をしていると、親権をとるのは難しいですか?
働いていること自体を理由に不利とする規定はありません。裁判所が聴くのは、これまでの養育状況や、双方の経済力と家庭環境などです。勤務時間や休暇の取りやすさ、子の世話を頼れる家族の有無といった、今後の暮らしの組み立てを具体的に説明できる資料があると、状況が伝わります。
Q. 母親が子どもを連れて出て行った場合でも、父親が親権をとれる余地はありますか?
連れて出たかどうかだけで親権が決まるという規定はありません。婚姻中は父母双方が親権者で、子の転居は例外にあたる事情がなければ共同で決める事項です。事情によっては、子の引渡しや監護者の指定の調停を家庭裁判所に申し立てる方法もあるので、弁護士か家庭裁判所の窓口で手続きを確かめてください。
Q. 父子家庭になった場合、児童扶養手当は受けられますか?
児童扶養手当は、平成22年8月から父子家庭にも支給されています(こども家庭庁。令和8年4月8日に掲載資料が更新されたページを、2026年10月24日に確かめました)。受給には所得制限などの要件と、市区町村の認定が必要です。所得の限度額は2024年11月の改正で引き上げられています。具体的な限度額と手当額は、こども家庭庁の制度概要と住所地の市区町村の窓口で確かめてください。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第766条・第818条・第819条・第824条の3(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 父母の離婚後等の子の養育に関する見直しQ&A(民法編)(法務省)
- 親権者変更調停(裁判所)
- 夫婦関係調整調停(離婚)(裁判所)
- 裁判所 よくある質問(家事事件)(裁判所)
- 児童扶養手当について(こども家庭庁)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。