住宅ローンが残る家の財産分与:オーバーローンと名義・連帯保証の整理
住宅ローンが残る家の財産分与は、家の価値からローン残高を引いた額がプラスかマイナスかで、話の中身が変わります。プラスなら、その差額が分けるものになります。マイナス(オーバーローン)なら、分ける財産としての価値はなく、足りない分を誰がどう負担するかが課題です。さらに、離婚しても名義や連帯保証は自動では変わらないので、書面に「家は妻のもの」と書くだけでは、ローンの責任は動きません。
家の価値とローン残高:オーバーローンの見方
まず、二つの数字を並べます。
- 家の価値:不動産会社の査定額を目安にする。査定額は売れる値段そのものではなく、各社が根拠を示して出す見込み。
- ローン残高:金融機関の残高証明書で確かめる。
宅地建物取引業法34条の2第2項は、不動産会社が媒介契約で価額に意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならないと定めています。査定を受けたら、根拠を聞いて構いません。
次の表は、仮の数字で三つのケースを比べたものです(筆者の計算。数字は説明用の仮定で、実際の家の例ではありません)。
| ケース | 査定額 | ローン残高 | 差額 | 財産分与で考えること |
|---|---|---|---|---|
| ア:アンダーローン | 3,000万円 | 2,000万円 | +1,000万円 | 差額の1,000万円が分ける対象。売却費用を引いて見る |
| イ:ほぼ同額 | 2,500万円 | 2,500万円 | 0円 | 分ける財産は残らない。売却費用分が持ち出しになる |
| ウ:オーバーローン | 2,000万円 | 2,600万円 | −600万円 | 売っても600万円と売却費用が不足する |
ウの場合、売却費用も加わります。報酬告示から導いた筆者の計算では、仲介手数料の上限は「売買代金×3%+6万円」に消費税を加えた額で、2,000万円なら66万円の1.1倍の72万6,000円です。不足は、600万円+72万6,000円=672万6,000円になる見込みです。ほかに、抵当権を外す登記の費用などがかかる場合があります。
家の価値がローン残高を下回ると、財産分与の対象としての価値はプラスにならない場合があります。その場合の扱いは事情によって変わるので、弁護士に確かめてください。
名義・連帯保証・連帯債務は離婚で自動的には変わらない
住宅ローンには、複数の人がかかわる形があります。
| 立場 | 内容 | 離婚で自動的に変わるか |
|---|---|---|
| 名義人(債務者) | 金融機関からお金を借りている人 | 変わらない |
| 連帯保証人 | 民法446条・454条により、借りた人が払わないとき、同じ責任を負う人 | 変わらない |
| 連帯債務者・ペアローンの相手 | 契約書で夫婦の双方が債務者や保証人になっている形。契約書の名前を確かめる | 契約の名前は変わらない。外す方法は金融機関に聞く |
| 家の所有名義 | 登記上の持ち主。ローンの名義人と別でもよい | 登記を変えなければ変わらない |
民法369条は、抵当権者が債務の担保に提供された不動産について、他の債権者に先立って弁済を受ける権利を持つと定めます。住宅ローンの多くは家に抵当権が付いているので、返済が止まると、名義が誰であっても、競売の手続に進むおそれがあります。
家の所有名義を妻に移し、ローンの名義人は夫のまま、という形がよく問題になります。日本公証人連合会は、多くの銀行のローン約款では無断の名義変更で残りの一括返済を求められる、と説明しています。名義の変更は事前に銀行の承諾が要り、妻に資力があるような例外を除いて、銀行は承諾しないことが多い、とされています。
金融機関に確かめることと、決める順番
- 残高証明書と契約書を取り寄せる。 名義人、連帯保証人、連帯債務者、団体信用生命保険の加入の有無、約款の名義変更の条項を見ます。
- 家の価値を知る。 複数の不動産会社の査定と、その根拠を比べます。
- 選択肢ごとに、金融機関の対応を聞く。 売却して完済する、一方が借り換える、債務者を変える、保証人を変える。それぞれ、承諾の条件を聞き取ります。
- 決まったことを書面にする。 離婚協議書や公正証書に、誰が・いつまで・いくら払うか、払えなくなったときの扱いを書きます。書き方は離婚協議書の書き方:浮気の慰謝料・養育費・財産分与の条項の例にあります。
- まとまらなければ調停へ。 離婚後は財産分与請求調停で話し合えます。
金融機関に相談するときの文例です。
話し方の例:「離婚を考えており、住宅ローンの債務者変更と保証人の変更ができるか、条件を教えてください。現在の残高証明書は持っています」
売る方向が見えてきたら
オーバーローンでなければ、売却代金でローンを返して家を手放す道があります。査定を取る段階では、売ると決めていなくても構いません。
売却の手順は離婚で家を売却するときの流れ:査定・売る時期・代金の分け方、三つの選択肢の比べ方は財産分与で家はどうする?売る・住み続ける・名義を移す3つの選択肢にまとめています。ローンの返済が苦しい場合に備えて、上の質問の窓口も控えておいてください。
よくある質問
Q. 離婚したら、住宅ローンの名義も自動的に変わりますか?
変わりません。財産分与の条文(民法768条)は夫婦の間で財産をどう分けるかを定めるもので、金融機関とのローン契約を書き換える定めはありません。名義の変更やローンの引き受けは、金融機関の承諾が要る話です。日本公証人連合会も、無断で名義を変えると残りの一括返済を求められる約款が多いと説明しています。
Q. 連帯保証人になっている場合、離婚すれば保証人から外れますか?
離婚だけでは外れません。保証は、貸している金融機関との契約です。民法454条は、連帯保証人は催告の抗弁と検索の抗弁を持たないと定めます。外れたいなら、金融機関と、保証人を代える方法を話す必要があります。
Q. ローンの返済が苦しくなってきました。どこに相談すればいいですか?
まず契約している金融機関の窓口に、延滞する前に連絡します。並行して、法テラス(日本司法支援センター)のサポートダイヤル 0570-078374(平日9時〜21時、土曜9時〜17時)で、弁護士などの相談先を案内してもらえます。放置すると、抵当権に基づく競売の手続に進むおそれがあります。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第369条・第446条・第454条・第768条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 離婚の公正証書(住宅ローンが残る家のQ&A)(日本公証人連合会)
- 宅地建物取引業法 第34条の2・第46条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(報酬告示)(国土交通省)
- 財産分与請求調停(裁判所)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。