慰謝料の相場は計算できる?計算ツールの数字をうのみにしない理由
不倫や離婚の慰謝料には、決まった計算式はありません。民法は、不法行為で損害を与えた人が賠償する責任と、精神的な損害も賠償の対象になることを定めているだけで、額の出し方は書いていません。インターネットの計算ツールが出す数字は、作った人が置いた仮定から出した目安で、裁判所や法律が認めた「相場」ではありません。この記事では、計算できない理由、ツールの数字の扱い方、自分の場合の見込みを確かめる方法の順に答えます。
慰謝料の相場を計算する式は、法律にも判例にもない
不貞行為の慰謝料の根拠になるのは、民法709条(故意・過失で他人の権利や法律上保護される利益を侵害した人は損害を賠償する)と、710条(財産以外の損害も賠償する)です。どちらの条文にも、婚姻期間や子どもの人数を入れて額を出すような決まりはありません。
ほかの分野と比べると違いが分かります。交通事故の自賠責保険では、自動車損害賠償保障法16条の3が、保険会社は国土交通大臣と内閣総理大臣が定める支払基準に従って支払う、と定めています。不倫や離婚の慰謝料には、このように国が定めた支払基準に当たるものがありません。
判例も同じです。最高裁昭和54年3月30日判決は、不倫相手が配偶者の権利を侵害した責任を負うことを示し、最高裁平成31年2月19日判決は、不倫相手に求められるのは原則として不貞行為そのものの慰謝料で、離婚させたことの慰謝料は特段の事情がない限り求められない、と区別しました。どちらの判決も、責任を負うかどうかを判断したもので、金額の基準は示していません。
統計にも手がかりは少なく、最高裁判所の司法統計年報(家事編)令和7年の全70表の中に、慰謝料だけの額を集計した表はありません。家庭裁判所の家事手続案内も、手続きの案内をする窓口で、「慰謝料は幾らくらいもらえるか」といった相談には応じないとしています。
| 決まる場面 | 金額を決めるもの | 式の有無 |
|---|---|---|
| 話し合い・示談 | 当事者どうしの合意 | なし(合意した額になる) |
| 調停 | 調停委員を交えた話し合いでの合意 | なし |
| 裁判(判決) | 裁判所が証拠から認めた事実をもとに判断 | 条文に式はない |
| 交通事故の自賠責保険(比較) | 国が定めた支払基準 | 基準がある |
計算ツールの数字は何から出ているか
慰謝料の計算ツールの多くは、婚姻期間、子どもの有無、不倫の期間や回数、離婚するかどうかといった項目を選ぶと、金額や金額の幅を表示する作りになっています。ここで額を動かしているのは、ツールの作り手が決めた「この項目ならいくら増やす」という重みづけです。その重みづけがどんな資料にもとづくのかを、ツールの画面だけから読み取るのは難しいのが普通です。
さらに、入力項目に入らない事情が、実際の話し合いや裁判では大きな意味を持ちます。
- 相手が事実を認めているか:否定されれば、額の前に「関係があったこと」を示す材料が問われる(浮気の証拠なしでも慰謝料は請求できる?)
- 不倫相手が既婚と知っていたか:昭和54年判決は、責任の前提に故意または過失があることを置いている
- 関係が始まった当時の夫婦の状態:婚姻関係がすでに破綻していたと反論される場面がある
- 相手の支払う力:合意や判決で額が決まっても、払えるかは別の問題になる
- 時効:損害と相手を知った時から3年、不法行為の時から20年(民法724条)を過ぎていれば、額の議論に入れないことがある
| ツールが見ていること | ツールが見ていないこと |
|---|---|
| 婚姻期間・子どもの有無 | 相手が事実を認めているか |
| 不倫の期間・回数(自己申告) | 不倫相手が既婚と知っていたか |
| 離婚するかどうか | 関係が始まった当時の夫婦の状態 |
| — | 証拠の量と質、相手の支払う力、時効 |
額を上げ下げしやすいと言われる事情そのものは、前の記事の離婚慰謝料が高額になる事情とは?判決と条文で確かめられる範囲のチェックリストで扱っています。ここでは、その事情が「ツールの係数」のように足し算で決まるものではない、という点を押さえておいてください。
計算ツールの数字を使うなら:3つの扱い方
ツールを見てはいけないわけではありません。使い方を決めておけば、相談の準備に役立ちます。
- 相手に示す請求額として、そのまま書かない。 「ネットで計算したらこの額だった」は根拠の説明になりません。根拠を問われて答えられないと、話し合いが止まりやすくなります。高すぎる額を強い言葉で求めると、受け取った側が身構えて弁護士を立て、かえって長引くこともあります。
- 相談のときのメモとして持っていく。 「このツールではこの項目で額が上がった。自分の場合もそう考えてよいか」と聞けば、弁護士の説明が具体的になります。
- 数字より先に、事実を時系列でまとめる。 ツールに入力した項目を、日付と根拠つきで書き出し直します。これが相談でいちばん役に立つ資料になります。
相場の情報全般を読むときの注意は、不倫慰謝料の相場はなぜ一律に言えない?にまとめています。
自分の場合の見込みを確かめる方法
見込みを聞く相手は、個別の事情を見て法的な判断ができる弁護士です。相談の前に、次のものをそろえておくと、短い時間でも話が進みます。
- 時系列のメモ:結婚した日、不倫が始まった頃、発覚した日、話し合った日、別居の有無
- 相手についての情報:配偶者・不倫相手の氏名と、分かっていれば住所
- 手元の材料:メッセージの画面、写真、相手が認めた言葉の記録(並べ方は慰謝料請求の証拠をそろえる手順)
- 自分の希望:離婚するか、関係を続けるか、何を一番望むか
相談の場では、金額だけを聞くより、次のように聞くと判断の材料が増えます。
聞き方の例:「この事実関係で、請求の根拠になる点と、相手から反論されやすい点はどこですか。話し合い・調停・裁判のそれぞれで、決着までの期間と費用はどのくらい見込んでおけばよいですか。」
弁護士費用が心配な場合は、法テラス(日本司法支援センター)の法律相談を検討できます。総合法律支援法30条は、費用を払う資力が乏しい人などを対象に、法律相談の実施や弁護士費用の立替えを法テラスの業務として定めています。利用には収入と資産の条件があるので、使えるかどうかは法テラスとは?浮気・離婚の相談で使える無料相談と費用の立替えの条件で確かめてください。
離婚を選ばずに関係を続ける場合は、配偶者に慰謝料を求めても家計の中でお金が動くだけになりやすく、考え方が変わります。次の記事不倫の慰謝料は離婚しない場合も請求できる?で、その点を整理します。
よくある質問
Q. ネットの計算ツールで「300万円」と出ました。この額で請求してもいいですか?
請求する額は請求する側が決めるものなので、その額を書くこと自体は止められていません。ただ、相手から「なぜその額なのか」と聞かれたときに、ツールの結果だけでは説明になりません。額を決める前に、自分の事実関係で根拠を説明できるかを弁護士に聞いておくと、話し合いがこじれにくくなります。
Q. 法律事務所のサイトにある計算ツールなら、当てになりますか?
作っているのが弁護士でも、ツールの数字は入力された項目だけから出した目安で、相手の言い分や証拠は入っていません。事務所の計算ツールは、相談の申込みにつなげる広告の役割を持つこともあります。数字そのものより、どの項目で額が上下する作りなのかを見て、相談のときに自分の場合に当てはまるかを確かめる材料にしてください。
Q. 計算式がないなら、何を目安に考えればいいのでしょうか?
金額より先に、婚姻期間、不倫が続いた期間、発覚した日、離婚するかどうか、相手が事実を認めているかといった事実を一枚にまとめることが目安づくりの出発点です。そのメモを持って弁護士に相談すると、話し合い・調停・裁判のどこで決まりそうか、という見通しと一緒に額の考え方を聞けます。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第709条・第710条・第724条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 自動車損害賠償保障法 第16条の3(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 最高裁平成31年2月19日判決 判決全文(裁判所)
- 最高裁昭和54年3月30日判決 判決全文(裁判所)
- 司法統計年報(家事編)令和7年(最高裁判所)
- 家事手続案内(裁判所)
- 総合法律支援法 第30条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。