慰謝料の分割払いの決め方:受け取る側・払う側と不払いに備える書面
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慰謝料を分割払いにするときは、総額・回数・各回の額・支払日の4つに加えて、遅れたときに残りをまとめて払う約束(期限の利益の喪失)と、遅延損害金を決めて書面に残すのが基本の形です。受け取る側にとっては不払いの不安が、払う側にとっては払い続けられるかが分かれ目になります。不払いに備えるなら、強制執行認諾の文言を入れた公正証書にしておくと、裁判をしなくても強制執行に進めます。
分割払いで決める6つの項目
分割の約束は、「月々いくら」だけを決めると、遅れたときや途中で払えなくなったときにもめます。次の6つを1つずつ決めます。
| 項目 | 決めること | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 総額 | 慰謝料として払う全体の額 | 金180万円 |
| 頭金 | 最初にまとめて払う額と日 | 令和○年○月○日限り金30万円 |
| 回数と各回の額 | 残りを何回でいくらずつ払うか | 令和○年○月から毎月末日限り金5万円ずつ30回 |
| 支払いの方法 | 振込先と手数料の負担 | 甲の指定する口座へ振込。手数料は乙の負担 |
| 期限の利益の喪失 | 何回分遅れたら残りを一括で払うか | 支払いを2回分以上怠り、その額が金10万円に達したとき |
| 遅延損害金 | 遅れた分にどの率で上乗せするか | 年3パーセントの割合(定めなければ法定利率) |
上の例は、総額180万円のうち30万円を頭金とし、残りの150万円を月5万円の30回で払う形です(30万円+5万円×30回=180万円。筆者の計算)。回数が多いほど1回の負担は軽くなりますが、払い終わるまでの年月が延び、その間に相手の収入や住所が変わる心配が増えます。30回なら2年半です。
支払日は「毎月末日限り」のように日付を決めます。民法412条1項により、期限が決まっている支払いは、その期限が来た時から遅れの責任が生じます。期日を「給料日のころ」のようにあいまいにすると、いつから遅れたのかで争いになりやすくなります。
協議離婚の条件の一つとして慰謝料を決める場合の全体の項目は協議離婚で慰謝料を決めるとき:金額・支払い方法・書面の残し方、不倫相手との示談書に入れる他の条項は不倫の示談書の書き方:入れる条項の例と作るときに気をつけることで扱っています。
期限の利益の喪失とは:遅れたら残りを一括で求める約束
分割払いでは、払う側は「毎月の支払日までは払わなくてよい」という利益を持っています。これを期限の利益といい、民法136条1項は、期限は払う側の利益のために定めたものと推定しています。
法律が期限の利益を失わせる場面は、民法137条で、破産手続開始の決定を受けたとき、担保をなくしたり減らしたりしたとき、担保を出す義務があるのに出さないとき、の3つに限られています。支払いが遅れただけでは、法律上は残りの全額をすぐに求めることはできません。 そのため、遅れたら残りを一括で払うという約束を、当事者の合意として書面に入れておくことになります。
文例:「第○条 乙が前条の分割金の支払いを2回分以上怠り、その額が金10万円に達したときは、乙は、甲からの通知催告がなくても当然に期限の利益を失い、甲に対し、残額及びこれに対する期限の利益を失った日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金を直ちに支払う。」
この条項を決めるときの分かれ道は、次の3つです。
- 何回遅れたら失うか:1回の遅れで失う形は受け取る側に有利ですが、払う側にとっては振込の一日のずれで全額が来る重い約束になります。「2回分以上」「その額が○万円に達したとき」のように幅を持たせる形がよく使われます。
- 当然に失うか、通知してから失うか:「通知催告がなくても当然に」と書けば条件を満たした時点で、「甲の請求により」と書けば受け取る側が求めた時点で期限の利益がなくなります。どの時点から残額を請求できるかが変わります。
- 遅延損害金の率:率を決めなければ、遅れた最初の時点の法定利率によります(民法419条1項)。法定利率は年3パーセントで、法務省は2026年4月1日から2029年3月31日までの期も年3パーセントのままと告示しています。率を高く決めることもできますが、極端に重い約束は公の秩序に反するとして無効とされるおそれがあります(民法90条)。
遅延損害金だけでは、払う側にとって遅れの負担はあまり大きくなりません。たとえば月5万円の支払いが30日遅れた場合、年3パーセントでの遅延損害金は約123円です(5万円×3%×30日÷365日。筆者の計算)。遅れを防ぐ仕組みとしては、遅延損害金よりも期限の利益の喪失の条項のほうが重みを持つことが分かります。
受け取る側が考えること・払う側が考えること
同じ分割の約束でも、受け取る側と払う側では気にする点が違います。相手の立場を想像しておくと、話し合いがまとまりやすくなります。
受け取る側が確かめたいこと
- 頭金をいくら受け取れるか。最初にまとまった額を受け取っておくと、途中で止まったときの残りが小さくなる
- 回数を必要以上に長くしない。相手の収入から見て払える範囲で、短めの回数を考える
- 相手の勤務先・住所が変わったら知らせる約束を入れる。日本公証人連合会も、離婚の公正証書に入れる条項の一つとして住所等の変更の通知義務を挙げている(「離婚」Q3)
- 保証人をつけてもらうか。保証の約束は書面でしなければ効力がない(民法446条2項)
- 毎月の入金を通帳や振込の記録で確かめ、遅れたら日付をメモしておく
払う側が確かめたいこと
- 毎月の額が、家賃・生活費・養育費などを払ったあとでも続けられる額か。離婚に伴って養育費も払う場合は、両方を合わせて考える
- 期限の利益の喪失の条件が、振込の日がずれただけで当てはまるほど厳しくないか
- 繰上げて払えるか。期限の利益は放棄でき(民法136条2項)、早く払い終えることは一般に妨げられない
- 払い終えたときに、支払いが済んだことを確かめる書面を受け取る約束を入れておく
- 収入が減って払えなくなりそうなときは、遅れる前に相手か弁護士に相談する
払う側として、そもそも提示された額を払えない、減額を求めたいという段階なら、不倫の慰謝料が払えないとき:分割・減額の相談と自己破産との関係を先に読んでください。分割の約束で話し合いがまとまらない、相手と直接話すのがつらいといった場合は、弁護士に交渉や書面の作成を頼む方法もあります。
不払いに備える書面:私文書・公正証書・調停調書の違い
分割払いは、払い終わるまで不払いの心配が続きます。どの形で約束を残すかで、止まったときの動き方が変わります。
| 書面の形 | 作り方 | 支払いが止まったとき |
|---|---|---|
| 当事者が作る合意書・示談書 | 当事者が署名押印する | まず調停や訴訟で債務名義を得る必要がある |
| 強制執行認諾文言つきの公正証書 | 公証役場で公証人が作る | 裁判を経ずに強制執行を申し立てられる(執行証書) |
| 調停調書 | 家庭裁判所の調停で合意する | 調書をもとに強制執行を申し立てられる |
公正証書のうち、一定額の金銭を払う約束と「支払わないときは直ちに強制執行に服する」という陳述が書かれたものは、民事執行法22条5号の執行証書にあたります。日本公証人連合会も、こうした定めを置くと支払いがされない場合に裁判手続を経ることなく強制執行が可能になると説明しています(「離婚」Q24)。
分割払いを公正証書にしたときに知っておきたいのは、強制執行を始められる範囲です。民事執行法30条1項により、支払日が決まっている請求は、その日が来た後に限って強制執行を始められます。期限の利益の喪失の条項がなければ、遅れた回の分だけを、遅れるたびに差し押さえることになります。
もう一つの注意は、養育費の特例と混同しないことです。
- 養育費・婚姻費用などは、一部に不払いがあれば将来の分も差し押さえられ(民事執行法151条の2)、給料は2分の1まで差し押さえられる(152条3項)
- 慰謝料はこの特例の対象外で、給料の差押えは原則どおり4分の1まで(152条1項。政令で定める額を超える部分の扱いもある)
公証人手数料は、約束で動く金額によって決まります(公証人手数料令9条・別表)。たとえば頭金を除いた150万円の分割払いなら、100万円を超え200万円以下の区分に当たります(筆者の計算)。遅延損害金のような附帯の約束は、目的の価額に算入しないとされています(手数料令15条)。金額の表と計算例は協議離婚で慰謝料を決めるとき:金額・支払い方法・書面の残し方と不倫の示談書を公正証書にするメリットと公証役場での流れにあり、最終額は公証役場の見積もりで確かめてください。
支払いが止まったときに受け取る側がすること
分割の支払いが止まったら、まず書面の条項と入金の記録を並べ、期限の利益を失う条件に当たっているかを確かめます。
- 遅れを記録する:支払日、入金がなかった回、その額を表にまとめる
- 連絡して事情を聞く:振込の手違いのこともあるため、まず書面やメッセージで入金がないことを伝え、返事を残す
- 条項に当てはめる:「2回分以上」「○万円に達したとき」などの条件を満たしているか、通知が必要な書き方かを読み返す
- 書面で請求する:通知が必要な条項なら、内容証明郵便などで残額の支払いを求めた記録を残す
- 手続を選ぶ:執行証書や調停調書があれば強制執行、合意書だけなら調停・訴訟で債務名義を得る
強制執行の申立てに必要な書類と流れは、決まった慰謝料が支払われないとき:強制執行の仕組みと必要な書面で順に扱っています。分割の途中で相手が「破産するしかない」と言い出した場合は、不倫の慰謝料と相手の破産:免責されない場合の考え方と確かめることを見てください。支払いが長く止まったままにしておくと時効の問題も出てくるため、数え方は不倫の慰謝料の時効は3年と20年:いつから数えるかの考え方で確かめておきます。
催促をしたことで相手が怒り、脅しやつきまといが始まったときは、回収の手続きを後回しにして身の安全を守ります。窓口の使い分けは不倫で脅されたときの記事へ、番号と受付時間は浮気・不倫の相談先一覧:悩み別の窓口と番号・受付時間の早見表で確かめてください。
よくある質問
Q. 分割の途中で、残りをまとめて早く払ってもかまいませんか?
民法136条は、期限は払う側の利益のために定めたものと推定し、その利益は放棄できるとしています(ただし相手方の利益を害することはできません)。分割金に利息をつけない約束なら早く払って相手が損をすることは通常なく、早めに払うこと自体は一般に妨げられません。ただし「繰上げて払う場合は事前に連絡する」などの決まりを書面に入れていればそれに従います。払い終えたら、振込の記録とあわせて、支払いが済んだことを確認する書面を受け取っておくと後で困りません。
Q. 離婚の慰謝料を月々で受け取る場合、養育費と同じように将来の分まで差し押さえられますか?
できません。将来の分まで差し押さえられる特例(民事執行法151条の2)は、養育費・婚姻費用などの決まった義務に限られていて、慰謝料は対象外です。慰謝料は、支払日が来た分について強制執行を始める原則どおりの扱いになります。だからこそ、遅れたときに残りの全額の支払日を来させる「期限の利益の喪失」の条項が大切になります。
Q. 分割にする代わりに、保証人をつけてもらうことはできますか?
相手の親族などが引き受けてくれれば、保証人を立ててもらう方法があります。保証の約束は書面でしなければ効力を生じないと民法446条2項が定めているので、保証人本人にも署名してもらった書面が必要です。保証人になる人に責任の範囲を十分説明し、無理に頼まないことも大切です。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第90条・第136条・第137条・第404条・第412条・第419条・第420条・第446条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 令和8年4月1日以降の法定利率について(法務省)
- 民事執行法 第22条第5号・第30条第1項・第151条の2・第152条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 公証人法 第26条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 公証人手数料令 第9条・別表・第15条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 離婚(Q3・Q24〜Q27)(日本公証人連合会)
- 手数料(日本公証人連合会)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。