不倫の示談に請求された側が応じるとき:示談書で確かめる条項
不倫の慰謝料を請求され、示談書を示されたら、その場で署名せずに持ち帰り、条項を一つずつ読んで、自分が約束する内容と、相手が約束する内容を分けて確かめるのが基本です。示談は、民法695条のいう和解にあたり、互いに譲り合って争いをやめる約束です。そして696条によって、成立したあとで新しい事情が出てきても、権利は和解で決まったとおりに移転・消滅したことになります。後から変えにくいからこそ、署名の前の確認が大切になります。この記事では、請求された側が示談書で確かめる条項を表にして示します。
示談の効力と、署名の前に止まる理由
示談書の署名は、請求された側にとって、争いを終わらせる手段であると同時に、約束の拘束を受ける行為でもあります。理由は3つあります。
- 蒸し返しにくい。 和解で決まったことは、後から反対の証拠が出ても、原則として和解のとおりに扱われます(民法696条)。
- 事実を認める文言が前提になる。 「不貞行為を行った」という記載があれば、その後の話し合いは、事実を認めた前提で進みます。支払いや一部の弁済は、権利の「承認」として時効が新たに進み始める原因になります(民法152条)。
- 払えない約束は後で困る。 分割払いや期限の利益を失う条件が書かれていると、1回の遅れで残りを一括で求められる場合があります。
示談書は、相手が作って持ってくることもあれば、請求された側が案を出すこともあります。どちらの場合も、書式の見た目ではなく、中身を確かめます。示談の全体の進め方は不倫の示談の進め方:話し合いで決める項目と合意の残し方、条項の例は不倫の示談書の書き方:入れる条項の例と作るときに気をつけることにあります。この記事は、請求された側が「署名前に何を見るか」に絞ります。
請求された側が確かめる条項の一覧
| 条項 | 確かめること | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 事実の記載 | 関係の期間、既婚の認識、不貞行為という言葉が自分の認識と合うか | 「知りながら」と書かれていると、既婚の認識を認めた形になる |
| 解決金・慰謝料の額と名目 | 額の内訳、慰謝料以外の費用が混じっていないか | 名目が「離婚に伴う慰謝料」か「不貞行為の慰謝料」か |
| 支払い方法と期限 | 一括か分割か、振込先、手数料の負担 | 1回の遅れで残額を一括請求される条項(期限の利益の喪失) |
| 清算条項 | この書面に定めるほか、互いに債権債務がないと確認する条項があるか | 条項がないと、同じ件の追加請求を止める根拠が弱い |
| 求償権 | 自分が払った後に、請求した人の配偶者(不倫を一緒にした相手)へ負担を求める権利をどう扱うか | 放棄を求められる場合、その代わりに何が得られるか |
| 口外禁止 | 誰に、何を話してはいけないか。相手も同じ義務を負うか | 家族、弁護士、医師、職場への相談が禁止に含まれるか |
| 接触禁止 | 禁じる連絡の範囲、同じ職場や近所での偶然の接触の扱い | 範囲が広すぎて、守れない約束にならないか |
| 違約金 | 何をしたらいくら払うのか | 金額が過大でないか。内容によっては無効とされることもある |
| 金銭以外の約束 | 謝罪文、退職、転居などを求められていないか | 示談書に書かない約束が別にないか |
表のうち、いくつかは補足が必要です。
清算条項。 日本公証人連合会は、離婚の公正証書に入れる清算条項を、書面に記載した権利・義務関係のほかには何の債権債務もないことを、当事者双方が確認する条項だと説明しています。示談でも同じ考え方で、どこまでで解決とするかを決める条項です。ただ、清算の対象が「この件の慰謝料」なのか「あらゆる請求」なのかで範囲が違います。範囲が曖昧なまま署名すると、解決したつもりでも、別の名目で話が出ることがあります。
求償権。 配偶者と不倫相手は、共同の不法行為をした者として、各自が連帯して賠償する責任を負います(民法719条1項)。連帯債務者の一人が弁済して共同の免責を得たときは、他の連帯債務者に負担部分に応じた求償ができる、という民法442条の考え方が参考になります。示談でこの権利を放棄させる条項が入ることがあります。放棄すれば、自分が全額を払っても、請求した人の配偶者に負担を求めにくくなります。負担の割合は事情によって変わるので、割合を断定せず、放棄の意味を弁護士に確かめます。詳しくは求償権の放棄とは?示談で放棄を求められたときに確かめることにあります。
違約金。 当事者は、債務不履行の場合の損害賠償の額を予定できます(民法420条)。ただし、公序良俗に反する法律行為は無効です(民法90条)。「接触したら○○万円」のような条項は、金額と対象行為の範囲を読みます。
示談書を公正証書にするとき:払えなくなったらどうなるか
示談の内容を公正証書にする提案を受けることもあります。公正証書は公証人が作る公文書で、日本公証人連合会は、反証がない限り完全な証拠力があると説明しています。請求された側にとって大きいのは、強制執行認諾の文言です。
金銭の一定の額の支払いを目的とする請求について、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が書かれた公正証書は、債務名義になります(民事執行法22条5号)。この文言があると、払えなくなったときに、相手は訴訟を経ずに差押えの手続に進めます。署名した書面の効果として、次の違いがあります。
| 書面 | 払えなくなった場合 |
|---|---|
| 通常の示談書 | 相手が調停や訴訟で債務名義を得る必要がある |
| 強制執行認諾文言つきの公正証書 | 相手が裁判をせずに、強制執行を申し立てられる |
金銭以外の約束、たとえば接触しない、謝罪する、といった内容は、公正証書にしても、そのまま強制執行できる対象ではありません。また、公証人は、法令に違反する事項や無効な行為については、公正証書を作れません(公証人法26条)。公正証書にするかどうかは、払える額かどうかを確かめたうえで決めます。
署名の前後の進め方
示談書を示されてから、署名するまでの流れを整理します。
- 書面を持ち帰る。 返事の期限を聞き、期限に無理があれば、先に伝えます。
- 条項に印をつける。 上の表に沿って、「問題なし」「質問がある」「直したい」に分けます。
- 相談する。 示談の交渉は、弁護士が代理できます。請求額が140万円以下なら、認定司法書士も裁判外の和解の代理ができます。相談先の選び方は慰謝料請求された側の弁護士の選び方:費用と相談で聞くことにあります。
- 直したい点を伝える。 理由とあわせて、書面で伝えると行き違いが減ります。
- 署名のあとは記録を残す。 原本または控え、振込の記録、受け取りの書面を保管します。
相談で聞く例:「この示談書で、私が約束する内容と、相手が約束する内容を分けると、どうなりますか。清算条項と求償権の条項は、私に不利になっていませんか。」
調停の場で示談に近い合意をする場合も、見るべき点は同じです。調停の準備は慰謝料の調停を申し立てられたら:呼出状が届いた後の準備にまとめています。
署名の前に条項を確かめる時間は、決して長くありません。数日の間に、事実の記載、額、払い方、清算の範囲の4つだけでも読み直すと、後で困る約束を避けやすくなります。
よくある質問
Q. 示談書の署名は、相手の前でその場でするものですか?
その場で署名する決まりはありません。示談は、互いに譲り合って争いをやめる約束で、成立したあとは後から蒸し返しにくくなります。書面を受け取ったら持ち帰り、条項を読んで、必要なら弁護士に見てもらってから、返事の期限を相手に確かめます。
Q. 示談書に「不貞行為を認める」と書かれていたら、署名してよいですか?
書かれた事実が自分の認識と合っているかを、署名の前に確かめます。事実の書き方が、その後の請求や話し合いの前提になることがあります。違う点があれば直してほしいと伝え、直せない場合は、弁護士に相談してから決めます。
Q. 示談金を払い終えたあと、何を残しておけばよいですか?
示談書の原本または控え、振込の記録、受け取りを示す書面を残します。振込の名義や日付が、示談書に書かれた支払期限や額と合っているかも見ます。清算条項があれば、「これで済んだ」ことを示す根拠になります。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第90条・第152条・第420条・第442条・第695条・第696条・第719条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民事執行法 第22条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 公証人法 第26条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 司法書士法 第3条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 離婚の公正証書に関するQ&A(日本公証人連合会)(日本公証人連合会)
- 公正証書に関するQ&A(日本公証人連合会)(日本公証人連合会)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。