慰謝料請求を無視されたら:次にとれる手続きの選択肢と時効の注意
この記事のもくじ
慰謝料を請求したのに無視されても、請求する権利がそれだけで消えることはありません。一方で、内容証明そのものに相手を従わせる力はなく、次の一歩は「再度の請求」「調停」「支払督促・少額訴訟・訴訟」のどれかを選ぶことになります。気をつけたいのは時効で、内容証明による請求で時効の完成が延びるのは6か月だけです(民法150条)。その間に調停や訴えを起こさないと時効は進みます。この記事では、無視されたときに確かめること、手続きの選び方、時効の注意、やってはいけない対応の順に答えます。
慰謝料請求を無視されたとき、最初に確かめる3つのこと
「無視された」と思っても、相手が受け取っていない、宛先が違っていたという場合があります。次の手続きを選ぶ前に、次の3点を確かめます。
- 届いたかどうか:配達証明を付けていれば、届いた日が分かる。付けていなければ、郵便追跡の記録や、戻ってきた郵便物の有無を確かめる
- 宛先が合っていたか:相手の現住所に送ったか。転居していると届かないことがある
- 期限の書き方:請求書に書いた回答期限が、相手が準備できる程度の日数だったか
受取りを拒まれて戻ってきた場合や、不在のまま保管期間が過ぎた場合は、戻ってきた封筒ごと保管しておきます。相手が受け取ったかどうかで言い分が分かれたとき、こちらが請求の意思を伝えようとした経過を示す材料になるからです。
届いているのに返事がない場合、相手が何を考えているかは文面からは分かりません。金額に納得していない、弁護士を探している、関係を否定したい、単に放っておけば済むと思っている、などさまざまです。ここで感情的に追いかけるより、手続きの選択肢を冷静に比べるほうが、結果として早く進むことが少なくありません。
次にとれる手続きの選択肢
相手が応じない場合の手続きは、大きく「話し合いをもう一度試す」「裁判所で話し合う」「裁判所に判断を求める」の3つに分かれます。
| 手続き | 何をするか | 申立先・費用の目安 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 再度の請求 | 期限を区切って、もう一度書面で求める | 郵便料金のみ | 宛先違い・受取り漏れが疑われるとき |
| 弁護士からの通知 | 弁護士の名前で請求し、交渉の窓口になってもらう | 弁護士費用 | 本人からの請求には応じない相手 |
| 慰謝料請求調停(家庭裁判所) | 元配偶者との間で、調停委員を交えて話し合う | 相手方の住所地の家庭裁判所。収入印紙1,200円分+郵便切手 | 離婚した元配偶者に請求するとき |
| 民事調停(簡易裁判所) | 調停委員会の解決案をもとに話し合う | 原則、相手方の住所地の簡易裁判所。手数料は訴訟より安い | 話し合いの余地はあるが、当事者だけでは進まないとき |
| 支払督促(簡易裁判所) | 書類審査で支払いを命じてもらう | 相手の住所地の簡易裁判所の書記官 | 金額や事実に争いが少ないと見込めるとき |
| 少額訴訟(簡易裁判所) | 60万円以下の金銭の請求を、原則1回の審理で解決する | 簡易裁判所 | 請求額が60万円以下のとき |
| 通常の訴訟 | 証拠をもとに裁判所が判断する | 請求額140万円以下は簡易裁判所、超えると地方裁判所 | 事実や金額に争いがあるとき |
調停は、相手が出てこなければ不成立で終わります。裁判所の家事事件Q&Aも、相手方が出席しない場合は不成立として終了すると案内しています。最初から相手が話し合いに乗らないと分かっているなら、調停を飛ばして訴えに進めるかどうかも含めて考えます。ただし離婚や離婚に伴う請求を家庭裁判所で争う場合は、訴える前にまず調停を申し立てるのが原則です(家事事件手続法257条。調停に付すのが相当でないと裁判所が認めるときは例外があります)。家庭裁判所の慰謝料請求調停の流れと費用は、慰謝料請求調停とは?家庭裁判所での流れと申立ての費用で詳しく説明しています。
支払督促は手軽に見えますが、相手が受け取ってから2週間以内に異議を出すと、通常の訴訟に移ります。少額訴訟も、相手が申し出れば通常の訴訟に移ることがあります。不倫の慰謝料は、関係があったか、既婚と知っていたかなどで争いになりやすく、結局は通常の訴訟になる場合を見込んでおく必要があります。
時効の注意:内容証明で延びるのは6か月だけ
不倫の慰謝料は、損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効にかかります(民法724条)。請求を無視されている間も、この期間は進んでいます。
時効の進み方で押さえておきたいのは、次の2点です。
- 内容証明での請求は「催告」:催告から6か月間は時効が完成しない(民法150条1項)。その6か月の間に、調停や訴えを起こす必要がある
- 調停や訴えを起こすと止まる:裁判上の請求、支払督促、民事調停・家事調停などがあると、その手続きが終わるまで時効は完成しない(民法147条1項)
内容証明をくり返し送っても、猶予はそのぶん延びません(民法150条2項)。書面で協議を合意した場合の扱いなど細かい点は、このあとのリンク先で確かめられます。
つまり「無視されているので、しばらく様子を見よう」と待っている間に、6か月の猶予が過ぎてしまうおそれがあります。知った時から3年が近いときは、待つより先に手続きを決めてください。時効が迫っている場合の考え方は、慰謝料請求の時効が迫っているときの完成猶予・更新の仕組みで整理しています。
相手が配偶者か不倫相手かで違うところ
無視された相手が誰かで、とれる道と時効の考え方が少し変わります。
| 相手 | 時効の特徴 | 主な手続き |
|---|---|---|
| 婚姻中の配偶者 | 夫婦の一方が他方に持つ権利は、婚姻が終わってから6か月を過ぎるまで時効が完成しない(民法159条) | 夫婦関係調整調停の中で話し合う、離婚の手続きとあわせて考える |
| 離婚した元配偶者 | 159条の猶予は婚姻の解消から6か月まで。その後は724条の期間で考える | 家庭裁判所の慰謝料請求調停、訴訟 |
| 不倫相手 | 159条は使えない。知った時から3年が基本 | 再度の請求、民事調停、支払督促、訴訟 |
不倫相手への請求を家庭裁判所の調停で扱えるかは、裁判所の慰謝料請求調停のページに書かれておらず、このページは元夫・元妻の間の手続きとして説明しています。不倫相手との話し合いを裁判所でしたいときは、申し立てる前に、家庭裁判所の手続案内か簡易裁判所の窓口で、どの手続きが合うかを聞いてください。不倫相手への請求の考え方そのものは、不倫相手に慰謝料を請求するときの考え方にまとめています。
無視されたときにやってはいけないこと
返事がないと、相手の職場や自宅に行って直接話したくなることがあります。けれど、次の対応はかえって自分が責任を問われたり、交渉で不利になったりするおそれがあります。
- 勤務先に電話する、職場に押しかける
- 「払わないなら家族や会社に知らせる」と伝える。名誉などに害を加えると告げる脅迫(刑法222条)に当たるおそれがある(言い換えは内容証明の書き方の表)
- SNSに不倫の事実を書き込む。事実であっても名誉毀損(刑法230条)が問題になりうる
- 何度も電話やメッセージを送り続ける
- 相手の家族に事情を話して、代わりに払わせようとする
連絡を重ねたい気持ちがあるときは、送る前に文面と回数を決めておくと、後で振り返ったときに自分の行動を説明しやすくなります。不倫相手への連絡で気をつける点は浮気相手に連絡するときの注意を、周囲に知らせることの危うさは不倫を周囲に知らせると名誉毀損になる?を参照してください。
手続きを選ぶ前に、内容証明の文面そのものを見直したいときは不倫慰謝料の内容証明の書き方に戻って、期限や回答先の書き方を確かめてください。請求の全体の流れは浮気・不倫の慰謝料とは?請求できる場面・金額の決まり方・進め方の全体像にまとめています。
よくある質問
Q. 相手が内容証明を受け取らずに戻ってきました。請求したことにはなりませんか?
受取りを拒まれたのか、不在で保管期間が過ぎたのかで、後の扱いの考え方が変わります。戻ってきた封筒と郵便局の記載はそのまま保管し、同じ内容を普通郵便でも送っておくなど、請求の意思を伝えた記録を重ねておきます。時効が近いときは、到達をめぐって争いになる前に、調停や訴えで時効の完成を止める手続きを弁護士と相談してください。
Q. 無視され続けたら、慰謝料はあきらめるしかないのでしょうか?
相手が応じなくても、調停や訴訟は相手の協力がなくても始められます。訴訟で判決が出れば、相手が払わないときに財産を差し押さえる手続きに進む道もあります。手続きの負担と見込みを比べて決めることになるので、どこまで進めるかは弁護士に資料を見せて相談するのが近道です。
Q. 配偶者に慰謝料を請求したのに、同じ家にいても話をしてくれません。どうすればよいですか?
婚姻中は、配偶者への慰謝料請求権の時効は、離婚などで婚姻が終わってから6か月を過ぎるまで完成しないと民法159条が定めています。急いで手続きに進む前に、離婚するかどうかを含めて話し合いの場をどう作るかを考える余地があります。第三者を交えた話し合い方は、家庭裁判所の夫婦関係調整調停も選択肢です。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第147条・第150条・第151条・第159条・第724条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 家事事件手続法 第257条・第272条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 慰謝料請求調停(離婚後の紛争調整)(裁判所)
- 民事調停(裁判所)
- 支払督促(裁判所)
- 少額訴訟(裁判所)
- 家事事件Q&A(調停に相手方が出席しない場合)(裁判所)
- 裁判所法 第33条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 刑法 第222条・第230条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。