別居の合意書に書くこと:生活費・子ども・期間の項目と文例
別居の合意書は、別居中の生活のルールを、夫婦が双方の署名で書面に残すものです。入れる項目は、①別居の開始日と別居先、②期間と見直しの時期、③生活費(婚姻費用)、④子どもの暮らしと親子交流、⑤住まいと財産の扱い、⑥連絡の方法、⑦約束が守られないときの対応、の7つが基本になります。決まった書式はなく、夫婦の事情に合わせて書き換えられます。この記事に項目の表と文例を載せました。
別居の合意書とは:誓約書との違いと、書く意味
合意書と誓約書は、似ていますが成り立ちが違います。
- 合意書: 夫婦の双方が内容を話し合い、双方が署名します。別居中の生活費や子どもの扱いなど、お互いの約束を書きます。
- 誓約書: 一方が相手に対して「こうします」と差し入れる書面です。浮気をした側が再発防止を約束する形が典型で、書き方は浮気・不倫の誓約書の書き方:入れる項目・文例・作るときの注意で扱っています。
別居の取り決めを一方の誓約書にすると、書いた側だけが縛られる形になり、もう一方は何も約束しない書面になります。別居中の生活費や子どもの面会のような双方の取り決めは、合意書にするほうが、お互いの約束として読み返しやすいでしょう。
書面にする意味は、主に3つです。第一に、別居を始める時点で「何を決めて、何を決めていないか」が見えます。第二に、あとで調停や裁判になったとき、決めた内容や、いつから別居していたかを示す資料になります。第三に、生活費の支払いが止まったときに、約束があったことを示せます。
ただし、書面があっても、約束を相手に守らせる手段は別です。合意書は私文書なので、相手が払わないときに、これだけで差押えなどの強制執行はできません。強制執行ができるようにする方法は、後半の公正証書の章で説明します。
別居の合意書に入れる項目
| 項目 | 書く内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 別居の開始日・別居先 | 開始日、別居する人、別居先(住所を伝えるか) | 住所を知らせたくない事情があるときは、連絡先だけにする |
| 期間・見直し | 「○か月後に、今後を話し合う」など | 期限を長く決めすぎず、見直しの時期を書く |
| 生活費(婚姻費用) | 月額、支払日、振込先口座、払う人 | 金額の目安は算定表で確かめる。ボーナスや臨時の費用も決める |
| 住居費・光熱費 | 元の家の家賃やローン、光熱費を誰が払うか | 別居先の家賃を誰が負担するかも書く |
| 子ども | 一緒に暮らす人、親子交流の頻度と方法、学費や医療費の負担 | 子どもの意見や都合に配慮する |
| 財産 | 預貯金・車・ローンの扱い、別居中に勝手に処分しない約束 | 財産分与の最終的な取り決めは、離婚の協議のときに回す |
| 連絡の方法 | 連絡手段、頻度、緊急時の連絡先 | 連絡の量を決めて、お互いの負担を減らす |
| 保険・手当 | 健康保険、児童手当の受給者 | 保険証と扶養の扱いを先に確かめる |
| 約束が守られないとき | まず話し合う、調停を利用する、など | 重い違約金は避ける |
| 見直し・解消 | 同居を再開するとき、離婚を話し合うときの手順 | 離婚の約束そのものにはしない |
生活費の金額は、夫婦の収入や子どもの数で決まる目安があります。別居中の生活費の仕組みは婚姻費用とは?別居中の生活費を請求する仕組みと決め方にあります。目安の読み方は婚姻費用算定表の見方:収入と子どもの数から目安を読む手順に、別居先を探す段階のお金は別居のための部屋探しと引越し:収入が少ないときの手段にあります。
子どもとの交流は、離婚の前の別居中でも決められます。民法817条の13は、子と別居する父または母と子との交流について必要な事項を、子の利益を最も優先して父母の協議で定めると規定しています。回数や連絡の方法を、合意書の中で具体的に書いておきます。
別居の合意書の文例
次は、夫婦の間で作る別居の合意書の一般的な形です。○や( )の部分を、自分たちの事情に書き換えてください。子どもがいない場合は、第5条を削除します。
別居に関する合意書
夫○○○○(以下「甲」という。)と妻○○○○(以下「乙」という。)は、別居について、次のとおり合意する。
第1条(別居)甲と乙は、○年○月○日から、(甲・乙)が(住所を伝える/連絡先のみ伝える)別居先で、別々に生活することに合意する。
第2条(期間と見直し)別居の期間は、○年○月○日から○年○月○日までを目安とする。期間の終わる○か月前までに、甲と乙は、今後の夫婦関係について話し合う場を持つ。
第3条(生活費)甲は乙に対し、婚姻費用の分担として、毎月○万円を、毎月○日までに、乙が指定する次の口座へ振り込んで支払う。金融機関名・支店名・口座番号( )。金額は、収入や生活状況に大きな変化があったときに、協議して改める。
第4条(住居費)元の住居の家賃(ローン)と光熱費は甲が、別居先の家賃と光熱費は乙が、それぞれ負担する。( )
第5条(子)未成年の子○○(○年○月○日生)は、乙のもとで生活する。甲は子と、月○回、(時間・場所・方法)で交流する。子の学費、医療費は、( )が負担する。交流の日時は、子の予定や体調を第一に、事前に連絡して決める。
第6条(財産)甲と乙は、別居の期間中、夫婦の預貯金、有価証券、不動産その他の財産を、他方の同意なく処分しない。ただし、日常の生活費や、前条までに定めた費用の支払いは除く。財産の分け方は、別居の期間中には決めず、今後の協議で定める。
第7条(連絡)甲と乙は、連絡を、(電話・メール・メッセージ)で行う。緊急のとき以外は、深夜・早朝の連絡を控える。
第8条(離婚について)この合意書は、離婚の合意を含まない。離婚その他の今後の夫婦関係は、第2条の話し合いで決める。
第9条(変更)この合意書の内容は、甲と乙の合意により、書面で変更できる。
○年○月○日 (甲)住所 氏名(自署) (乙)住所 氏名(自署)
第8条は、別居の合意と離婚の合意を分けるための条項です。別居中は離婚するかどうかを決めきれないことが多く、「別居に合意した」ことが「離婚に合意した」と受け取られると、後で行き違いが生じます。
浮気が原因の別居では、「不倫相手と連絡を取らない」「会わない」といった約束を入れたい場合もあります。ただし、そうした約束は、重い違約金や相手の自由を大きく縛る内容にすると、効力が問題になります。入れる場合の考え方は浮気の誓約書に効力はある?違約金や離婚の約束が問題になる場面を参考にしてください。
問題になりやすい書き方と、公正証書にできる範囲
次のような書き方は、あとでもめやすくなります。
- 「別居の期間が終わったら離婚する」と決める。 協議離婚は、離婚届を提出して成立します(民法764条)。書面の約束だけでは離婚は成立せず、期間が終わっても気持ちが変わっていることもあります。「離婚を含めて話し合う」に言い換えます。
- 高額な違約金。 民法420条は、損害賠償の額を予定できる(違約金は賠償額の予定と推定する)と定めていますが、90条により、内容によっては無効になりえます。
- 一方的な自由の制限。 「外出先を毎回報告する」「友人と会わない」など、相手の生活を細かく縛る約束は、守り続けるのが難しくなります。
- 脅して書かせる。 民法96条は、強迫による意思表示を取り消せると定めています。署名を急がせたり、「書かないなら〜する」と迫ったりしないでください。
なお、以前の民法754条は、夫婦間の契約を婚姻中いつでも取り消せると定めていました。この条文は、2026年4月1日施行の改正で削除されています。古い解説には「夫婦間の約束は取り消せる」と書かれたものが残るので、日付に注意して読んでください。
公正証書にできる範囲。 生活費の支払いについては、公正証書にすることで、強制執行が可能になる場合があります。日本公証人連合会の説明では、①一定額の金銭を支払う合意と、②支払わないときは強制執行に服する旨の陳述(強制執行認諾)が書かれた公正証書があれば、裁判をしなくても強制執行ができます(民事執行法22条5号)。婚姻費用などの定期金の債権には、一部の不払いがあれば支払期の来ていない分の給料まで差し押さえを始められる特例(同法151条の2)と、給料の差押えが認められる範囲が4分の1から2分の1に広がる特例(同法152条3項)もあります。一方で、親子交流のような金銭以外の約束は、公正証書にしても直接の強制執行はできません。
公証人は、法令に違反する事項や無効な行為について公正証書を作れません(公証人法26条)。住所が明らかになると生命や身体に危害が及ぶおそれがあるなど法務省令の定める場合には、公正証書の閲覧が請求されても住所が分からない措置を公証人がとることになっています(42条5項)。DVの心配があるときは、作成を頼む前に公証人へ事情を伝えて相談してください。公正証書の費用や必要書類は離婚の公正証書の費用:公証人手数料の決まり方と必要書類で確かめられます。
合意書の作り方の手順と、弁護士に相談する場面
- 項目ごとに、希望と譲れない点を書き出す。 生活費、子ども、住まいの3つから始めます。
- 話し合いで項目を決める。 話し合いが難しいときは、別居中の調停の使い分け:円満調停と婚姻費用の分担請求調停で、家庭裁判所の手続きを確かめます。
- 案文を作り、双方が読む。 その場で署名を求めず、持ち帰る時間を取ります。
- 署名は、双方が自筆で。 日付も書きます。
- 原本を各1通ずつ保管する。 写真やスキャンの控えも残します。
- 必要なら、公証役場で公正証書にする。 生活費の支払いを確保したいときに検討します。
生活費の金額や子どもの交流のしかたで意見が分かれるとき、財産の扱いが複雑なときは、弁護士に案文を見てもらう選択肢があります。相談の準備は弁護士に相談する前の準備:時系列メモと持ち物・聞くことの一覧で確認できます。合意書ができたら、手当の受給者を変える手続きに進みます。別居中の児童手当・児童扶養手当:受け取る人の変更と申請で、申請の順番を確かめてください。
よくある質問
Q. 別居の合意書は、夫婦で署名すれば法的に有効ですか?
夫婦が内容に納得して署名した書面は、契約として扱われます。ただ、公序良俗に反する内容(民法90条)や、脅されて書かされた内容(96条)は、効力が争われえます。2026年4月1日施行の改正で、夫婦間の契約をいつでも取り消せるとした旧754条は削除されましたが、個々の条項が実際にどう扱われるかは内容しだいです。
Q. 合意書に「半年後に離婚する」と書けば、離婚が決まりますか?
書いただけでは離婚は成立しません。協議離婚は、離婚届を提出して成立します(民法764条)。合意書には「別居の期間が終わる頃に、離婚を含めて今後を話し合う」という形で書くのが、後で行き違いを防ぎやすい形です。
Q. 相手が合意書に署名してくれません。どうすればよいですか?
署名を強いるのは避け、話し合う場を第三者に移すことを考えます。生活費だけでも決めたいときは婚姻費用の分担請求調停が、関係の修復を含めて話したいときは円満の夫婦関係調整調停があります。使い分けは別の記事で扱っています。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第90条・第96条・第420条・第752条・第760条・第764条・第817条の13(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)について(2026年4月1日施行)(法務省)
- 民事執行法 第22条・第151条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 公証人法 第26条・第42条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 離婚(公正証書)Q&A(日本公証人連合会)
- 婚姻費用の分担請求調停(裁判所)
- 夫婦関係調整調停(円満)(裁判所)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。