浮気した側も財産分与を受けられる?慰謝料との関係の整理
浮気をした側であっても、離婚後に財産分与を請求する道が閉じるわけではありません。民法768条は財産分与を請求できる人を「協議上の離婚をした者の一方」と定め、請求の資格を「浮気をしていないこと」には結びつけていません。財産分与は、婚姻中に夫婦で築いた財産を離婚のときに整理する仕組みで、浮気に対する賠償である慰謝料とは目的が違います。
ただし、家庭裁判所が分与の額や方法を決めるときは「一切の事情」を考慮します。浮気の事実がその中でどう扱われるかは、事案ごとの判断になります。この記事では、条文と最高裁の判決から言えることと、財産分与と慰謝料を一緒に話し合うときの整理の仕方を示します。
浮気した側にも財産分与の請求権はあるのか
民法768条3項が家庭裁判所に示している考慮事項は、次のとおりです。
- 婚姻中に取得し、または維持した財産の額
- その取得・維持についての各当事者の寄与の程度
- 婚姻の期間、婚姻中の生活水準
- 婚姻中の協力及び扶助の状況
- 各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入
- その他一切の事情
この列挙に「不貞な行為」「有責」といった言葉はありません。目的は「離婚後の当事者間の財産上の衡平を図る」ことと書かれています。ですから、浮気したことを理由に請求の資格そのものを失う、という書き方は条文からは出てきません。一方で「一切の事情」という枠があるため、浮気が分与の額にどこまで響くかを、公的な資料から一律に答えることもできません。裁判所の公開資料には「浮気をした側は何割」といった基準は示されていません。
最高裁の昭和62年9月2日大法廷判決は、有責配偶者からの離婚請求であっても、別居が相当の長期間に及び、未成熟の子がおらず、相手方が離婚で極めて苛酷な状態におかれるなどの特段の事情がなければ、認められうるとしました。浮気をした側かどうかという問題と、離婚後の経済面の整理は、別の論点として扱われています。この判決から、浮気をした側の財産分与の割合が決まるわけではありません。
財産分与と慰謝料は何が違うのか
二つを混ぜると、請求の相手も期限も証拠も取り違えます。違いを表にします。
| 項目 | 財産分与 | 慰謝料(浮気の責任を問うお金) |
|---|---|---|
| 目的 | 婚姻中に築いた財産の清算(民法768条3項は「財産上の衡平」) | 精神的な苦痛への賠償(民法709条・710条) |
| 請求の相手 | 元配偶者 | 配偶者と、不倫相手(不倫相手への請求は別の論点) |
| 浮気の事実が直接問われるか | 条文の考慮事項には書かれていない | 請求の中心になる |
| 期限 | 離婚の時から5年(2026年3月31日以前の離婚は2年)。家庭裁判所に請求できる期間 | 損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年(民法724条) |
| 調停での扱い | 離婚調停の中で話し合える。離婚後は財産分与請求調停 | 離婚調停の中で話し合える。離婚後は慰謝料請求調停 |
| 裁判所に出す資料 | 預貯金・不動産・保険などの財産に関する資料 | 浮気の事実を示す資料 |
読み方のポイントは、財産分与が「ものの清算」、慰謝料が「責任に対する賠償」だという分担です。慰謝料の仕組みは不貞行為の慰謝料は民法の何条?709条・719条・724条と最高裁の考え方、金額の決まり方を含む全体像は浮気・不倫の慰謝料とは?請求できる場面・金額の決まり方・進め方の全体像で扱います。
なお、最高裁の平成31年2月19日判決は、夫婦の一方が不貞の相手方に対して「離婚に伴う慰謝料」を請求することは、特段の事情がない限りできないとしました。不貞行為そのものの責任は別とされており、配偶者本人への請求とは分けて考える必要があります。
一緒に話し合うときの整理:名目を分けて書面に残す
離婚の話し合いでは、財産の分け方と浮気のお金が一度に出てきます。裁判所の離婚調停の案内でも、離婚とあわせて財産分与、年金分割の割合、慰謝料を話し合えるとされています。同じ席で話すこと自体は問題ありませんが、頭の中と書面の中では次の順に分けて整理すると、後で困りにくくなります。
- 財産の一覧を先に作る。 預貯金、不動産、保険、株式、車、ローンなどを、名義と取得時期つきで書き出します。何が対象になるかは財産分与の対象になる財産・ならない財産の早見表と判断が分かれる例で確かめます。
- 分与の考え方を決める。 割合の考え方は財産分与の割合は2分の1が原則?寄与が違うと言えるのはどんな場合にまとめています。
- 慰謝料は別の行として扱う。 浮気の事実を示す資料と、請求する額・支払い方法を、財産分与とは別の項目として整理します。
- 書面に名目ごとの金額を書く。 「解決金」の一本書きにすると、慰謝料の分だったのか財産分与の分だったのかが後から食い違います。
四つめには税金の理由もあります。国税庁は、離婚で相手から財産をもらうこと自体には原則として贈与税がかからないと説明していますが、分与された額が婚姻中の協力で得た財産の額などを考慮しても多すぎる場合は、その多すぎる部分に贈与税がかかるとしています。名目がどちらかで税の見方が変わる場面があるので、内訳は書面で分けます。税の扱いの全体は財産分与に税金はかかる?不動産を渡す側・受け取る側の扱いで確かめられます。
された側・した側がそれぞれ確かめること
浮気をされた側は、慰謝料の請求と財産分与の請求を別々の期限で数えます。財産分与は離婚の時から5年、慰謝料は損害と加害者を知った時から3年が出発点で、起算点が異なります。離婚前に慰謝料と財産分与を一緒に決めるなら、合意書に二つの名目を並べて書きます。財産分与の対象になる財産が分からないときの手続は財産分与で隠し財産が疑われるとき:開示を求める手続きと調べ方で扱います。
浮気をした側は、財産分与を請求できる立場と、慰謝料を請求される立場が同時にありえます。慰謝料を払うことと、財産分与を受け取ることは、別々の取り決めです。慰謝料の請求書が届いたからといって、財産分与の話が自動的に止まるわけではないので、二つの話を並行して整理します。別居中の生活費の問題は浮気した側から婚姻費用を請求されたら?有責配偶者の請求と子の分の考え方に分けて書いています。
どちらの立場でも、次の資料は離婚後も使うので、日付つきで残します。
- 通帳・取引履歴の写し(別居前後の残高が分かるもの)
- 不動産の登記事項証明書とローンの残高表
- 保険証券、証券口座の残高
- 別居した日が分かる記録(住民票の異動、賃貸契約書など)
手続と相談先
話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所の調停を使えます。離婚前なら夫婦関係調整調停(離婚)の中で、離婚後なら財産分与請求調停で申し立てます。裁判所の案内では、どちらも申立ての費用は収入印紙1,200円分と連絡用の郵便切手です。離婚訴訟になった場合は、人事訴訟法17条により、離婚と、その原因である事実から生じた損害賠償(浮気の慰謝料など)を一つの訴えで請求することもできます。
家庭裁判所の手続案内は申立ての方法や費用の説明を行う窓口で、「慰謝料はいくらもらえるか」といった相談には応じていません。財産分与の割合や、浮気が分与にどう影響するかといった個別の見通しは弁護士の領域です。次に読むなら、対象財産の見方を扱う財産分与の対象になる財産・ならない財産の早見表と判断が分かれる例です。全体の流れは浮気が原因の離婚とお金:婚姻費用・養育費・財産分与・慰謝料の全体像にあります。
よくある質問
Q. 浮気した側が先に家を出ていった場合でも、財産分与は請求できますか?
民法768条1項は、協議上の離婚をした者の一方が相手方に財産の分与を請求できると定めるだけで、出ていった側を除く規定はありません。家庭裁判所が額や方法を決めるときは、婚姻中に築いた財産や寄与の程度などの一切の事情を考慮します。別居の時期が算定の基準時として争われることもあるので、いつ別居したかの記録を残してください。
Q. 慰謝料を受け取ったら、財産分与は少なくなりますか?
二つは別の制度なので、慰謝料を受け取ったことだけで財産分与の請求権がなくなる仕組みはありません。ただし、合意書に「財産分与の中に慰謝料を含む」と書けば、その合意が基準になります。名目と金額を分けて書面に残すと、後から食い違いにくくなります。
Q. 離婚の話し合いのとき、財産分与と慰謝料はまとめて決めてよいですか?
離婚調停では、裁判所の案内上、離婚とあわせて財産分与や慰謝料も話し合えます。まとめて決めること自体は可能です。そのうえで、財産分与にあたる部分と慰謝料にあたる部分の内訳を書面に分けておくのが、後の税金や追加請求の場面で役に立ちます。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第709条・第710条・第724条・第768条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 家事事件Q&A(離婚の調停で話し合える事項・財産分与・不貞行為が原因の慰謝料)(裁判所)
- 夫婦関係調整調停(離婚)(裁判所)
- 財産分与請求調停(裁判所)
- 最高裁判所大法廷 昭和62年9月2日判決(昭和61年(オ)第260号)(裁判所)
- 最高裁判所第三小法廷 平成31年2月19日判決(平成29年(受)第1456号)(裁判所)
- 人事訴訟法 第17条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 離婚して財産をもらったとき(タックスアンサー No.4414)(国税庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。