不貞行為の判例で知っておきたい考え方:最高裁の判断から分かること
この記事のもくじ
不貞行為をめぐる最高裁の判例で押さえておきたいのは、①不貞行為の意味(昭和48年)、②不倫相手の責任の基本(昭和54年)、③婚姻関係が破綻した後の関係(平成8年・令和8年)、④不倫相手への離婚慰謝料(平成31年)、⑤不貞行為をした側からの離婚請求(昭和62年・平成6年)の5つの考え方です。この記事では、裁判所のウェブサイトで判決全文を開いて確かめた7件だけを取り上げ、判決が決めたことと、事件ごとの事情で変わることを分けて示します。
不貞行為の判例を読む前に:判決が決めること・決めないこと
最高裁の判決は、法律の条文の意味や、どういう枠組みで判断するかを示します。一方で、慰謝料の金額や「この事情なら請求が認められる」という線は、ここで扱う判決のどれにも出てきません。
| 裁判年月日・法廷 | 事件番号・掲載 | 何を示したか |
|---|---|---|
| 昭和48年11月15日 第一小法廷 | 昭和48年(オ)第318号、民集27巻10号1323頁 | 770条1項1号の不貞な行為の意味 |
| 昭和54年3月30日 第二小法廷 | 昭和51年(オ)第328号、民集33巻2号303頁 | 不倫相手の配偶者への責任、子への責任 |
| 平成8年3月26日 第三小法廷 | 平成5年(オ)第281号、民集50巻4号993頁 | 婚姻関係が破綻した後の関係 |
| 令和8年6月5日 第二小法廷 | 令和7年(受)第933号 | 破綻を信じたことと過失の検討 |
| 平成31年2月19日 第三小法廷 | 平成29年(受)第1456号、民集73巻2号187頁 | 不倫相手への離婚慰謝料 |
| 昭和62年9月2日 大法廷 | 昭和61年(オ)第260号、民集41巻6号1423頁 | 有責配偶者からの離婚請求 |
| 平成6年2月8日 第三小法廷 | 平成5年(オ)第950号、集民171号417頁 | 未成熟の子がいる場合の有責配偶者の請求 |
読むときの注意は3つです。1つ目は、判決はその事件の事実関係の下での判断だということ。2つ目は、「破棄差戻し」の判決は、最終的な結論を高等裁判所に任せているということ。3つ目は、判決が引く条文の号が、その後の改正で変わっている場合があることです。
不貞行為の意味と、不倫相手の責任(昭和48年・昭和54年)
昭和48年判決は、民法770条1項1号の「不貞な行為」を、配偶者のある者が自由な意思にもとづいて配偶者以外の者と性的関係を結ぶことと示し、相手方の自由な意思によるものかどうかは問わないとしました。離婚を求められた側の配偶者が、他の者と共謀したうえで自分の意思で3人の女性を強いて姦淫し、性的関係を結んだ事実が認められ、不貞な行為があったと判断された事件です。定義の読み方は不貞行為とは何かの記事で解説しています。
昭和54年判決は、夫婦の一方と肉体関係を持った第三者は、故意または過失がある限り、誘惑したかどうか、自然な愛情によるものかどうかにかかわらず、他方の配偶者の「夫又は妻としての権利」を侵害したことになり、精神的苦痛を慰謝する義務があるとしました。原審が「自然な愛情による関係だから違法ではない」として妻の請求を退けた判断を破棄しています。
同じ判決は、子どもからの請求について、不倫相手が害意をもって父親の子に対する監護などを積極的に阻止するなどの特段の事情がない限り、子に対する不法行為にはならないとしました。この部分には反対意見があり、昭和期の長期の同棲の事件だった点も読み取っておく必要があります。
婚姻関係の破綻と、不倫相手の過失(平成8年・令和8年)
平成8年判決は、配偶者と第三者が性的関係を持った当時、夫婦の婚姻関係が既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、第三者は責任を負わないとしました。理由は、責任の根拠が「婚姻共同生活の平和の維持」という利益の侵害にあり、破綻後はその利益があるとはいえないからです。この事件では、別居の前から長い対立があり、夫が夫婦関係調整調停を申し立てたこともあった、という事情の下で破綻が認められました。判決は別居の年数で線を引いていません。
令和8年6月5日判決は、不倫相手が既婚と知らなかった(故意がない)とされた事件で、原審が「離婚したと信じたことに相当の理由がない」ことだけで過失を認めた点を誤りとしました。婚姻関係が破綻していたと信じ、そう信じる相当の理由があったかどうかまで検討する必要がある、として高松高等裁判所に差し戻しています。相手は離婚届や夫婦間のメールを見せられていました。差戻しの判決なので、この事件で請求が最終的にどうなったかは判決からは読み取れません。
この判決には、不貞行為そのものの慰謝料と離婚慰謝料は訴えの対象が異なること、審理を肉体関係の有無→破綻の有無と時期→破綻を信じた相当の理由、の順で進めることを示した裁判官の補足意見が付いています。補足意見は判決そのもの(法廷意見)とは区別して読むものです。破綻の考え方は婚姻関係の破綻とは何かの記事、既婚と知らなかった側の考え方は既婚者と知らなかった場合の記事にまとめています。
離婚慰謝料と有責配偶者(平成31年・昭和62年・平成6年)
平成31年判決は、夫婦の一方は、不貞行為をした第三者に対して、特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求できないとしました。特段の事情とは、第三者が夫婦を離婚させることを意図して婚姻関係に不当な干渉をするなどして、離婚のやむなきに至らしめたと評価すべき事情です。離婚は本来その夫婦の間で決める事柄だから、というのが理由です。判決は、不貞行為そのものを理由とする責任は別だと述べているので、「不倫相手に慰謝料を請求できなくなった判決」ではありません。二つの慰謝料の違いは離婚の慰謝料と不倫の慰謝料の違いの記事で扱っています。
昭和62年大法廷判決は、不貞行為をした側(有責配偶者)からの離婚請求も、①別居が両当事者の年齢や同居期間と比べて相当の長期間に及び、②未成熟の子がおらず、③相手方が離婚で精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態に置かれるなどの特段の事情がない限り、有責配偶者からの請求だという一事で退けることはできないとしました。この事件の別居は約36年で、判決は年数の線を示していません。判決文は当時の条文の「770条1項5号」を引いていますが、2026年4月1日施行の改正後は4号です。
平成6年判決は、未成熟の子がいても、ただそれだけで有責配偶者の請求を退けるべきではなく、昭和62年判決の挙げる事情を総合して判断するとしました。残る子が高校2年生で間もなく卒業すること、送金を続けていたこと、離婚に伴う給付が期待できることなどが考慮されています。有責配偶者の考え方は有責配偶者とは何かの記事で詳しく扱っています。
判例を自分の状況に当てはめる前に整理すること
判例を読むと「自分の場合はどれに近いか」を考えたくなりますが、結論を左右するのは、判決に出てくるような具体的な事実です。弁護士に相談するときに役立つよう、次の点を時系列で書き出しておきます。
- 関係の時期:配偶者と不倫相手の関係がいつ始まり、いつ知ったか
- 当時の夫婦の状態:同居か別居か、別居の始まり、調停の申立ての有無、会話や家計の状況
- 相手の認識:不倫相手が既婚と知っていたと考える理由、「離婚する」「破綻している」と伝えられていた事情の有無
- 求めたいこと:不貞行為そのものの慰謝料か、離婚か、離婚に伴う請求か
- 子どもの状況:年齢、誰と暮らしているか、生活費の送金の有無
条文と判例を組み合わせた慰謝料の全体像は不貞行為の慰謝料の仕組み、配偶者と不倫相手の責任の違いは不倫と法律の関係の記事、相談の前の準備は弁護士に相談する前の準備で確かめられます。
判例が扱っていない体の関係のない場面を知りたいときは、心の浮気は浮気?体の関係がないときの法律上の扱いと夫婦の向き合い方へ進んでください。婚姻届を出していない関係での扱いを知りたいときは、事実婚・内縁の相手の浮気はどう扱われる?婚姻との違いと相談先へ進んでください。
よくある質問
Q. 判例の全文はどこで読めますか?
裁判所のウェブサイトの「裁判例検索」で、裁判年月日や事件番号を入れて探すと、判決の詳細ページと全文のPDFを開けます。この記事の表に事件番号を載せているので、そのまま検索に使えます。判決文は事実の認定から読むと、どんな事件での判断かがつかみやすくなります。
Q. 昭和の古い判例は、今も通用するのですか?
最高裁の判断は、後の最高裁が変更しない限り、同じ種類の事件を考える基準として参照され続けます。平成8年判決は、昭和54年判決を婚姻関係が破綻する前の事案だとして、事案を区別しています。ただし、昭和62年判決が引く「770条1項5号」は、2026年4月の改正後は4号になっている点に注意してください。
Q. 判例と同じような事情なら、同じ結論になりますか?
判例は、その事件で認定された事実の下での判断です。表面の事情が似ていても、時期の前後や証拠の内容が違えば結論が変わることがあります。令和8年判決の補足意見も、紋切り型の判断に陥らないよう求めています。
出典・参考にした公的な情報
- 最高裁判所 昭和48年11月15日 第一小法廷判決(裁判所)
- 最高裁判所 昭和54年3月30日 第二小法廷判決(裁判所)
- 最高裁判所 平成8年3月26日 第三小法廷判決(裁判所)
- 最高裁判所 令和8年6月5日 第二小法廷判決(裁判所)
- 最高裁判所 平成31年2月19日 第三小法廷判決(裁判所)
- 最高裁判所 昭和62年9月2日 大法廷判決(裁判所)
- 最高裁判所 平成6年2月8日 第三小法廷判決(裁判所)
- 民法 第770条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。