既婚者だと知らなかったのに慰謝料を請求されたら:故意・過失の考え方
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既婚者だと知らずに交際していても、相手の配偶者から慰謝料を請求されることはあります。ただ、不倫相手に責任が生じるのは、民法709条の「故意又は過失」がある場合です。つまり、本当に知らなかったかに加えて、注意すれば知ることができたのに、そうしなかったかが問われます。知らなかったことは、それだけで責任がなくなる理由にはなりませんが、請求に向き合うときの出発点です。この記事では、「知らなかった」の中身の分け方と、示す材料の整理のしかたをまとめます。
責任が問われる条件:知っていたか、知ることができたか
最高裁昭和54年3月30日判決は、夫婦の一方と肉体関係を持った第三者は、故意または過失がある限り、他方の配偶者に対して慰謝料を払う義務を負うとしました。裏返すと、故意も過失もなければ、この責任は生じにくくなります。
| 段階 | 問われること | 「知らなかった」との関係 |
|---|---|---|
| 故意 | 既婚者だと知っていたか | 知らなかったなら、故意はないという主張になる |
| 過失 | 注意すれば既婚者だと知ることができたのに、それを怠ったか | 知らなかったとしても、気づける事情があれば問題になる |
「好きになっただけ」「誘ってきたのは相手のほうだ」という事情は、責任をなくす理由にはなりません。昭和54年判決は、誘惑したかどうか、自然な愛情から生じた関係かどうかにかかわらず、故意または過失があれば責任の対象になるとしています。ですから、争点は気持ちの強さではなく、あなたが既婚と知りえた事情があったかに絞られます。
過失の面では、次の観点で手元の事実を振り返っておくと、弁護士に伝えやすくなります(判例が定めた基準ではなく、整理のための観点です)。
- 相手が独身だと明言した場面があるか、それとも聞かなかっただけか
- 交際の期間中、会える曜日や時間にどんな偏りがあったか
- 相手の自宅、職場、友人や家族のうち、実際に知っていたものはどれか
- 既婚をうかがわせる出来事に気づいたとき、本人に確かめたか、確かめたなら何と返されたか
請求の条件を整理した記事は慰謝料請求の条件は5つ:不貞行為・故意過失・婚姻関係・時効・支払い済みかにあります。
「知らなかった」は3つの型に分かれる
同じ「知らなかった」でも、言い分の型で、確かめる点が変わります。自分がどれに近いかを先に決めておくと、整理が進みます。
- 「独身だと聞いていた」型:結婚していること自体を知らなかった。相手が独身と話した場面と、その後に既婚を疑う出来事がなかったかが焦点です。
- 「離婚したと聞いていた」型:以前は結婚していたことは知っていたが、離婚済みと聞いていた。いつ、何を見せられてそう聞いたかが焦点です。
- 「夫婦は終わっていると聞いていた」型:結婚が続いていることは知っていたが、実質的に破綻していると信じていた。夫婦の実際の状態と、そう信じた理由が焦点です。
2と3は、既婚の事実は知っていた前提です。そのため、1とは別の整理になります。1の型が当てはまる人は、次の章の材料の整理に進んでください。
示す材料を整理する:時系列と記録
「独身だと思っていた」ことを示す材料は、交際中のやりとりと日常の出来事にあります。次の表を、自分の手元にあるかどうかで埋めてください。
| 材料 | 具体的な例 | 整理の仕方 |
|---|---|---|
| 相手の説明 | 「独身」「彼女はいない」と話した場面のメッセージ | 日付とそのままの文言を写して保存する |
| 出会いの場 | マッチングアプリの登録内容、紹介者の説明 | 登録時の婚姻状況の欄、プロフィールの画面を残す |
| 交際中の様子 | 会う曜日と時間、自宅に行ったか、友人や家族に紹介されたか | 気になった点も、なかった点も、日付で並べる |
| 既婚を疑う出来事 | 指輪、子どもの話、家庭を思わせる発言 | 隠さず入れ、そのとき相手が何と答えたかも書く |
| 知った日 | 既婚と分かったきっかけと日付 | 知った後の対応(連絡を断ったか、続けたか)を書く |
材料を並べるときに大切なのは、不利に見える点も一緒に書くことです。弁護士が見たいのは、都合のよい点だけの一覧ではなく、全体の流れです。推測と事実も分けてください。「たぶん気づくはずがなかった」は推測、「相手は週末も平日夜も会えると言っていた」は事実です。
配偶者や相手のスマホ・アカウントに無断で入って材料を集める行為は、別の問題を生みます。集め方の線引きは浮気の証拠集めで違法になりうることで確かめてください。
「破綻していると聞いていた」型:2026年6月の最高裁判決
3の型については、2026年6月5日の最高裁判決が参考になります。この判決は、不倫相手が、相手から離婚するつもりだと伝えられ、本人が記入した離婚届や夫婦のメールのやりとりを見せられていた事件で、原審が、破綻していると信じたことと、そう信じる相当の理由があったかを検討せずに過失を認めたのは誤りだとして、原判決のうち不倫相手の敗訴部分を破棄し、高等裁判所に差し戻しました。
読み方には注意が必要です。この判決は、請求が認められるか退けられるかの結論を示したものではありません。審理のやり方を正したものです。「離婚届を見せられれば責任はない」とまでは述べていません。
平成8年3月26日の最高裁判決は、関係を持った当時に婚姻関係がすでに破綻していたときは、特段の事情がない限り、不倫相手は責任を負わないとしています。ただし、「破綻していた」かどうかは、事実関係を見て決まります。別居の年数のような線は示されていません。
- 肉体関係があったか
- 関係の当時、婚姻関係は破綻していたか
- 破綻していたなら、破綻と関係の始まりのどちらが先か。破綻の後なら、原則として責任なし
- 破綻の前なら、「破綻している」と信じ、そう信じる相当の理由があったか
- 相当の理由があれば過失なし。なければ、請求が認められる余地が出る ※この順序は、判決に付いた裁判官の補足意見が示したもので、判決そのものとは区別されます。
夫婦の破綻の考え方は「婚姻関係の破綻」とは?浮気と慰謝料・離婚で問題になる場面で整理しています。
請求が届いたときの動き方
請求書や連絡が届くと、すぐに弁明を送りたくなります。次の順で動くと、後から困りにくくなります。
- 返信を急がない:届いた文面は日時が分かる形で保存します。反論の文面は、弁護士と決めてから送ります。
- 認める書面に署名しない:「既婚と知っていた」と読める文が入った書面に、その場で署名しないでください。署名した書面は証拠として残ります。書かされた書面への向き合い方は不倫の誓約書や念書を書かされたときで扱っています。
- 相手の配偶者へ直接連絡しない:感情的な連絡は、後から不利な材料になりえます。連絡が来たときの扱いは不倫相手の妻や夫から連絡が来たときにあります。
- 時系列を作る:上の表を、日付順の1枚にまとめます。
- 弁護士に相談する:個別の見通しは、サイトでは示せません。選び方と費用は慰謝料請求された側の弁護士の選び方で確かめられます。
請求の全体の流れは不倫の慰謝料を請求されたらすることに、内容証明が届いた場合は不倫の内容証明が届いたらにまとめています。
文例(相手の配偶者から連絡が来て、すぐ答えられないとき):「ご連絡は受け取りました。内容を確認したうえで、改めてお返事します。」
独身と偽られていた場合:次に読む記事
あなたが相手から独身だと偽られていたのなら、あなたの側から相手に責任を問う話もあります。その考え方は、次の貞操権侵害とは?独身と偽った相手に責任を問う考え方と相談先で扱います。不倫をやめたい、関係を終わらせたい気持ちがあるなら、不倫をやめたいのにやめられないときが手順を示しています。逆に、請求する立場から同じ主張を受けたときの確かめ方は、不倫相手が「既婚者と知らなかった」と言うときにあります。
よくある質問
Q. 独身だと信じていたことを、どうやって示せばよいですか?
気持ちの説明より、当時の記録が手がかりになります。相手が独身だと話した場面のメッセージ、アプリの登録内容、交際中に会った時間帯や場所、友人や家族に紹介されたか、といった事実を日付つきで並べます。既婚を疑う出来事があったなら、それも隠さず時系列に入れて弁護士に見せてください。
Q. 途中で既婚だと分かった場合、その前の期間も責任を問われますか?
知った日を境に、前と後を分けて考えるのが出発点です。知った後も関係を続けたなら、「知らなかった」とは言いにくくなります。知る前の期間は、注意すれば知ることができたかが別に問われます。知った日と、そのときのやりとりを残しておいてください。
Q. 相手の配偶者が「示談書に署名して」と言ってきたら、署名したほうがよいですか?
署名の前に、書面の写しを持って弁護士に見せてください。署名した書面は、あなたが認めた内容の証拠として残ります。書面に「既婚と知っていた」と読める文があれば、後から争いにくくなります。急がされても、持ち帰って確認すると伝えて問題ありません。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第709条(不法行為による損害賠償)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 最高裁判所 昭和54年3月30日 第二小法廷判決(裁判所)
- 最高裁判所 平成8年3月26日 第三小法廷判決(裁判所)
- 最高裁判所 令和8年6月5日 第二小法廷判決(裁判所)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。