熟年離婚を考えるとき:年金分割・退職金・住まいで確かめること
この記事のもくじ
熟年離婚を考え始めたときは、感情の整理と並行して、お金と暮らしの見通しを次の順番で確かめると、決断がぶれにくくなります。①年金の記録と分割の仕組み、②退職金・預貯金・保険など財産の洗い出し、③今の家に住み続けるか出るか、④離婚後の健康保険と国民年金の切り替え、⑤毎月の生活費の組み立て、の5つです。熟年離婚には法律上の定義がなく、長く連れ添った夫婦の離婚を指す言葉として使われます。浮気が理由のときも、この確認は変わりません。
令和7年(2025年)の司法統計年報(家事編)第20表では、婚姻関係事件57,491件のうち、婚姻期間が20年以上のもの(20年以上25年未満と25年以上の合計)は15,166件で、全体の約26.4%でした。割合は筆者の計算です。この区分には離婚だけでなく円満調整などの事件も含まれ、家庭裁判所に申し立てず離婚届だけで離婚した夫婦は入っていません。長く連れ添った夫婦の事件が、家庭裁判所でも4件に1件ほどあるという目安として読んでください。
年金:分割の仕組みと、決める前に調べること
最初に調べるのは、年金分割です。日本年金機構の案内では、分割の対象は厚生年金の記録(標準報酬月額・標準賞与額)に限られます。
- 合意分割:婚姻期間中の厚生年金記録を、当事者の合意または裁判手続で決めた割合で分ける。合意できないときは、一方の求めで裁判所が割合を定められる。
- 3号分割:2008年4月1日以後の婚姻期間中に国民年金の第3号被保険者だった期間について、第3号だった人の請求だけで、相手の厚生年金記録を2分の1ずつに分ける。当事者の合意は不要。
- 割合の上限:按分割合は、2分の1以下の範囲で定める(厚生年金保険法78条の3)。「年金の半分」ではなく「婚姻期間の記録の合計のうち最大で半分まで」です。
- 国民年金(基礎年金)は分割されない:分割で動くのは厚生年金の報酬比例部分です。
請求期限は、離婚等をした日の翌日から5年以内です。2026年3月31日以前に離婚等をした場合は2年以内のままです。古い解説の「2年」は改正前の数字なので、離婚する日がどちらに当たるかを確認してください。
分割の割合を決める前に、情報提供請求(「情報通知書」)で、婚姻期間や標準報酬などの情報を取り寄せられます。離婚の前でも後でも、当事者の一方だけでも請求でき、窓口は年金事務所です。50歳以上の人などは、希望すると分割後の年金見込額(上限50%の場合・分割なしの場合・希望の割合の場合の3パターン)も教えてもらえます。離婚後に分割を請求する際の按分割合の証明は、公正証書の謄本・抄本、公証人の認証を受けた私署証書、「年金分割の合意書」(二人そろって年金事務所へ持参)、または調停調書・審判書などです。顔を合わせたくない場合は、公正証書や調停を使う道があります。仕組みの全体は年金分割とは?合意分割と3号分割の違いと手続きの流れ・請求期限にあります。
退職金と財産:離婚前に「ある物」を洗い出す
次に、財産の洗い出しです。財産分与は、民法768条で、婚姻中に取得・維持した財産の額とそれぞれの寄与の程度、婚姻の期間、年齢、収入などを考慮して定められます。寄与の程度は、異なることが明らかでないときは相等しいものとされます。請求期間は、2026年4月1日以後の離婚で離婚から5年、それより前の離婚で2年です。
熟年夫婦では、財産が多くなる分、書き出す項目も増えます。
- 預貯金(名義にかかわらず口座ごと)、有価証券、保険(解約返戻金の有無)
- 不動産とローンの残り(名義と債務者)
- 勤務先の退職金規程(いつ、いくら、どの形で支給されるか)
- 個人年金、企業年金、確定拠出年金などの積立て
- 車、会員権、貸付金などの財産と、住宅以外の借入れ
退職金が財産分与の対象になるかは、すでに受け取ったか、これから受け取る予定かで話が変わるため、財産分与で退職金は対象になる?支給前・支給後で変わる考え方で別に扱います。この記事で押さえたいのは、規程と見込額を調べておくことまでです。通帳の写しや源泉徴収票を離婚を切り出す前に手元に置いておくと、後の話し合いが具体的になります。
財産分与でもらった財産の税金は、国税庁の案内では、原則として贈与税がかかりません。ただし、分与された額が多すぎる場合や、税を免れるための離婚と認められる場合は例外です。不動産を渡す側には譲渡所得の税金がかかることがあるため、個別の判断は税務署か税理士に確かめてください。
住まい:残るか出るかを、名義・ローン・収入で決める
家は、熟年夫婦の財産の中心になりやすい項目です。名義が誰か、ローンが残っているか、連帯保証人や連帯債務者になっていないかを、登記事項証明書と金融機関の契約書で確かめます。今の家に住み続ける場合は離婚後も今の家に住み続けるには:名義・ローン・使用の取り決め、出る場合は住まいの探し方を離婚後の住まい探し:公営住宅やひとり親向けの支援の調べ方で扱います。
公営住宅は、公営住宅法で入居者の収入が条例の基準以下であることなどが条件です。基準の額や募集の時期は自治体ごとに違うので、住所地の都道府県・市区町村の住宅課で募集要項を確かめます。賃貸に移る場合は、年金額と家賃を並べた月の収支を先に作っておくと、物件の候補を絞れます。
健康保険と国民年金:扶養から外れる日に備える
配偶者の扶養に入っている人は、離婚すると、健康保険の被扶養者でなくなります。日本年金機構の案内では、被扶養者の削除の理由に「離婚したとき」が挙げられています。
| 手続 | 内容 | 期限・窓口 |
|---|---|---|
| 国民健康保険に入る | 勤務先の健康保険に入らない場合 | 世帯主が14日以内に住所地の市区町村へ(国民健康保険法施行規則3条) |
| 勤務先の健康保険に入る | 自分が働いている場合 | 勤務先に確認 |
| 国民年金の第1号になる | 20歳以上60歳未満で厚生年金に入っていない場合 | 住所地の市区町村の国民年金窓口 |
| 保険料の免除・納付猶予 | 収入が少なく保険料を払えない場合 | 申請して承認されると免除。未納のままにしない |
60歳以上の人は、国民年金の第1号の対象年齢を過ぎているため、表の3行目の手続は要りません。ただ、扶養から外れた日から保険料と医療の費用が変わるので、離婚の日付と手続の日付を、ひとつの表にして管理すると漏れがありません。保険の切り替えは離婚後の健康保険と年金の切り替え:扶養から外れるときの手続きにあります。国民年金の免除は、離婚前の別居中は配偶者の所得が審査の対象になることがあります。
| 順 | 確かめること | 確かめる先 |
|---|---|---|
| 1 | 年金の記録、情報通知書、年金分割の期限 | 年金事務所 |
| 2 | 預貯金・保険・不動産・ローン・退職金規程 | 通帳、契約書、勤務先 |
| 3 | 家の名義・ローンと、住み続けるか出るか | 法務局、金融機関 |
| 4 | 離婚後の健康保険と国民年金の切り替え | 市区町村、勤務先 |
| 5 | 毎月の収入(年金・給与)と支出の見通し | 離婚後の生活費の見通し:収入・手当・支出の表の作り方 |
浮気が理由のとき:慰謝料の期限も別に数える
浮気が理由の離婚では、年金分割や財産分与とは別に、慰謝料の請求の期限が進みます。民法724条は、不法行為による損害賠償請求権について、損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年と定めています。いつから3年かは、請求の相手や内容で考え方が分かれうるので、起算点を自分で決めつけず、早めに弁護士に確かめてください。慰謝料との関係は熟年離婚で慰謝料を考えるとき:長年の不倫が分かった場合の整理に書いています。
感情が揺れているときは、先に5つの確認を進めておき、結論は後に回しても構いません。離婚を切り出される側の不安は熟年離婚する夫婦の特徴とは?言われてから慌てないための整理に、レスなど浮気以外の事情が重なる場合はセックスレスは離婚の理由になる?浮気が重なる場合の考え方に、離婚全体の流れは浮気・不倫が原因の離婚:準備・話し合い・調停の流れと決めることにあります。
よくある質問
Q. 年金分割をすれば、相手の年金の半分がもらえますか?
いいえ。分割の対象は婚姻期間中の厚生年金の記録で、分割の割合の上限は2分の1です。国民年金(老齢基礎年金)は分割されません。分割を受けた人が年金を受け取るには、自分の受給資格期間を満たし、支給開始年齢に達している必要があります。
Q. 年金分割は離婚の後でもできますか?いつまでですか?
離婚等をした日の翌日から5年以内が原則です。2026年3月31日以前に離婚等をした場合は2年以内です。按分割合を決めるための情報提供請求は、離婚の前でも後でもできます。
Q. 専業主婦(主夫)で、離婚後の健康保険はどうなりますか?
配偶者の健康保険の被扶養者でなくなるため、自分で勤務先の健康保険か、住所地の市区町村の国民健康保険に入ります。国民健康保険は、扶養から外れてから14日以内に世帯主が届け出ると定められています。
出典・参考にした公的な情報
- 離婚時の年金分割(日本年金機構)(日本年金機構)
- 離婚時の厚生年金の分割(合意分割制度)(日本年金機構)(日本年金機構)
- 年金分割後の年金見込額を知りたいのですが(日本年金機構のよくある質問)(日本年金機構)
- 厚生年金保険法 第78条の3(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 従業員が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き(日本年金機構)(日本年金機構)
- 国民年金に加入するための手続き(日本年金機構)(日本年金機構)
- 国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度(日本年金機構)(日本年金機構)
- 国民健康保険法施行規則 第3条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法 第724条・第768条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 離婚して財産をもらったとき(国税庁 タックスアンサー No.4414)(国税庁)
- 令和7年 司法統計年報(家事編)第20表(婚姻期間別)(最高裁判所)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。