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不倫相手が「既婚者と知らなかった」と言うとき:請求する側が確かめること

この記事のもくじ
  1. 「既婚者と知らなかった」で問われるのは、故意と過失の2段階
  2. 相手の言い分は3つの型に分かれる
  3. 請求する側が集める材料:相手が既婚を知りえた事情
  4. 相手に言い返す前に:やりとりで避けたいこと
  5. 弁護士に相談するときの持っていき方:時系列メモ

不倫相手が「既婚者と知らなかった」と言っても、請求の話はそこで終わるとは限りません。民法709条は「故意又は過失」による権利侵害に賠償責任を負わせているので、問題になるのは**本当に知らなかったか(故意)**に加えて、**注意すれば知ることができたか(過失)**です。2026年6月の最高裁判決は、相手が「夫婦は破綻している」と信じ、そう信じる相当の理由があったかまで検討するよう求めました。請求する側がすることは、相手に言い返すことではなく、相手が既婚を知りえた事情を日付つきで集め、弁護士に見せられる形にすることです。

「既婚者と知らなかった」で問われるのは、故意と過失の2段階

不倫相手の責任について、最高裁昭和54年3月30日判決は、配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意または過失がある限り、誘ったのがどちらか、自然な愛情からかにかかわらず、慰謝料を払う義務を負うとしました。裏を返すと、故意も過失もない場合には、不倫相手への請求は認められにくくなります。「知らなかった」という言い分は、この故意・過失の条件を争うものです。

ここで分けて考えたいのは、相手の頭の中が次のどれにあたるかです。請求する側から見て、集める材料の向きが変わります。

相手の状態 法的な位置づけ 請求する側が示したいこと
既婚と知っていた 故意の問題 既婚を前提にした発言・行動があったこと
知らなかったが、気づける事情があった 過失の問題 普通に注意すれば既婚と分かった事情
知らず、気づける事情もなかった 故意・過失がないとされうる (この場合は配偶者への請求を中心に考える)
途中で既婚と知り、関係を続けた 知った日の前後で分かれる 知った日と、その後も会っていた事実

配偶者への請求は、この表とは別の話です。配偶者は自分が結婚していると知っているので、不倫相手の認識の問題は生じません。不倫相手に求めるのか、配偶者に求めるのか、両方なのかの整理は配偶者と不倫相手の両方に慰謝料を請求できるかの記事にあります。請求の条件の全体像は慰謝料請求の条件の記事で確かめてください。

相手の言い分は3つの型に分かれる

「知らなかった」と一口に言っても、中身は大きく3つに分かれます。型によって、確かめる点がまったく違います。

  1. 「独身だと聞いていた」型:結婚していること自体を知らなかったという言い分です。配偶者が独身と偽っていたかどうか、既婚と分かる場面がなかったかが焦点になります。
  2. 「離婚したと聞いていた」型:以前は結婚していたことを知っていた前提の言い分です。離婚の時期をどう聞かされ、何を見せられていたかが焦点になります。
  3. 「夫婦は破綻していると聞いていた」型:結婚は続いていると知っていたが、実質的に終わっていると信じたという言い分です。夫婦の実際の状態と、相手がそう信じた理由の両方が焦点になります。

2と3は、相手が「結婚していた(いる)こと」自体は知っていたことを前提にしています。相手から届いた文面に「離婚したと言われた」「別れる予定だと聞いた」と書かれていれば、その書き方そのものが、相手の認識を示す材料になります。消さずに、届いた日時が分かる形で保存してください。

2026年6月5日の最高裁判決は、3の型が問題になった事件です。不倫相手は、配偶者から離婚するつもりだと伝えられ、配偶者の欄を書いた離婚届や、夫婦の間の「互いのプライバシーに干渉しない」というメールのやりとりを見せられていました。原審は「離婚した・破綻していると偽って不倫をする人が多いのは世間でよく知られている」として過失を認めましたが、最高裁は、破綻していると信じたこととその理由の相当性を検討しないまま過失を認めたのは誤りだとして、審理をやり直させました。この判決は審理のやり方を正したもので、「離婚届を見せられれば責任はない」と述べたわけではありません。

流れ図:不倫相手への不貞慰謝料で検討される順序(令和8年判決の補足意見から)
  1. 肉体関係があったか
  2. 関係の当時、婚姻関係がすでに破綻していたか(平成8年判決)
  3. 破綻していたなら、破綻と関係の始まりのどちらが先か。破綻の後なら、相手の認識を問わず原則として責任なし
  4. 破綻の前なら、相手が「破綻している」と信じ、そう信じる相当の理由があったか
  5. 相当の理由があれば過失なし。なければ、ここで初めて請求が認められる余地が出る ※この順序は、全員一致の判決に付いた尾島裁判官の補足意見が示したもので、判決そのもの(法廷意見)とは区別されます。

この順序から分かるのは、3の型の言い分には、夫婦の実際の状態(破綻していたか)と、相手の信じた理由(相当だったか)の2つで向き合うことになる点です。夫婦の状態を説明する材料は婚姻関係の破綻とは何かの記事で整理しています。

請求する側が集める材料:相手が既婚を知りえた事情

相手が知っていた、または知ることができたことを示す材料は、特別な調査より先に、身の回りの記録から見つかることが多いものです。次の表を、自分の手元にあるかどうかで埋めてみてください。

材料の種類 具体的な例 3つの型のどれに効くか
出会った場所 同じ職場・取引先・子どもの学校関係・共通の友人。既婚であることが周りに知られていた場か 主に1
配偶者と相手のやりとり 「家族にばれる」「子どもの行事がある」「奥さん(旦那さん)は?」など、既婚を前提にした文言 1・2・3
会い方の偏り 平日の昼だけ、週末や夜は会わない、配偶者の家には一度も行っていない 主に1
公開されている情報 配偶者の公開SNSの家族写真、結婚指輪をした写真、年賀状 主に1
離婚・破綻の説明の中身 「離婚した」と言った時期、離婚届や書類を見せたか、同居を続けていたことを相手が知っていたか 2・3
夫婦の実際の状態 同居か、家計は一緒か、家族での外出や旅行の記録、関係修復の話し合い 主に3
知った日以降の事実 既婚と知った日、その後も会っていた記録、相手が認めた発言 途中で知った場合

集めるときに越えてはいけない線があります。配偶者や相手のアカウントに無断でログインしてメッセージを見ることは、不正アクセス禁止法3条が禁じる行為にあたりうるので避けます。公開範囲を限ったSNSに、他人のIDやパスワードを使って入るのも同じです。どこまでが許される集め方かは浮気の証拠集めで違法になりうることの記事にまとめています。

いちばん手がかりになりやすいのは、配偶者本人の説明です。配偶者が「既婚だと最初から話していた」と言うのか、「独身だと言っていた」と言うのかで、相手の言い分の見え方が大きく変わります。配偶者に聞いた内容は、日付と言葉をそのままメモに残してください。配偶者が独身と偽っていた場合は、相手から配偶者に責任を問う話が出ることもあり、その考え方は独身と偽った相手に責任を問う貞操権侵害の記事で扱っています。

不貞行為そのものを示す証拠の種類は不倫の証拠として有効なものの記事へ。この記事の表は、それとは別の「認識」の材料に絞っています。

相手に言い返す前に:やりとりで避けたいこと

「知らないはずがない」と思うほど、相手に直接問いただしたくなります。ただ、感情のまま送ったメッセージは、後から自分に不利な材料として扱われることがあります。次のことは避けてください。

  • 相手の勤務先・家族・SNSに不倫の事実を知らせる:刑法230条の名誉毀損は「その事実の有無にかかわらず」成り立ちうるので、本当のことでも問題になりえます
  • 「払わないなら会社にばらす」と告げる:脅迫(刑法222条)や、義務のないことをさせる強要(同223条)の問題になりえます
  • 相手の家や職場に押しかけて、認める言葉を引き出そうとする
  • 「知っていたと認めます」という書面に、その場で署名させる

相手からの連絡には、すぐに反論を書かなくてかまいません。届いた文面を保存し、返すとしても「内容を確認して改めて連絡します」程度にとどめ、反論の中身は弁護士と決めます。

文例(返信をいったん保留するとき):「ご連絡は受け取りました。内容を確認したうえで、改めてこちらから連絡します。」

相手への連絡の文面全般の注意は浮気相手に連絡するときの注意の記事にあります。相手やその周りから脅し・つきまといを受けている、身の危険を感じるという場合は、請求の準備より先に危険があるときの相談先の記事を開いてください。

弁護士に相談するときの持っていき方:時系列メモ

「知らなかった」という言い分が通るかどうかは、出来事の順番で見え方が変わります。弁護士に相談する前に、次の形で1枚にまとめておくと、短い相談時間でも話が進みます。

日付 出来事 相手が既婚を知りえた事情 手元の材料
例:出会った日 どこで、誰の紹介で知り合ったか 職場で既婚が知られていたか 社内の行事の写真など
例:関係が始まった頃 二人で会い始めた時期 家族の話をしていたか メッセージの画面写真
例:相手が既婚と知ったと言う日 相手がそう主張する日 その後も会っていたか 相手の文面
例:あなたが不倫を知った日 何で知ったか — 見つけた記録

書くときは、自分の推測と事実を分けます。「知っていたはず」は推測、「職場の歓迎会で配偶者が子どもの話をしていた」は事実です。弁護士が見たいのは後者です。相談先の選び方は不倫慰謝料を弁護士に頼むときの選び方の記事で、確かめる点を並べています。

立場が逆で、自分が「知らなかったのに請求された」側なら、既婚者だと知らなかったのに慰謝料を請求されたときの記事が対応する記事です。離婚した後に不倫が分かった場合の時効や清算条項の話は、前の記事の離婚後に不倫が発覚したときの慰謝料の考え方にあります。請求の全体の地図に戻るなら不倫の慰謝料とは何かの記事へ。配偶者がまだ関係を終わらせていない場合に、関係を終わらせる側が踏む手順は、次の不倫をやめたいのにやめられないときの記事で扱っています。

よくある質問

Q. 不倫相手が本当に知らなかった場合、慰謝料はどこにも請求できないのですか?

不倫相手の故意・過失は、不倫相手への請求で問題になる条件です。配偶者自身は自分が既婚だと知っているので、配偶者への請求はこれとは別に考えます。どちらに、どの順で求めるかは、家計や離婚するかどうかとも関わるので、弁護士に両方の見通しを並べてもらいます。

Q. 途中で既婚と知ったのに、関係を続けていたと相手が認めました。知る前の期間はどう考えますか?

知った日を境に、前と後を分けて整理するのが基本の考え方です。知った後の関係は、知らなかったという言い分が当てはまりにくくなります。知る前の期間については、知ることができた事情があったかが別に問われるので、知った日と、その前の出来事を分けて時系列メモに書いておきます。

Q. マッチングアプリで知り合ったと言われました。アプリの登録内容は材料になりますか?

登録画面で独身と表示していたのか、既婚者向けの場だったのかは、相手が知りえたかどうかを考える材料になります。独身と登録していたなら相手の言い分を支える方向に、既婚を示す表示があったなら反対の方向に働きうるので、どちらの場合も隠さず弁護士に伝えます。配偶者の端末に無断でログインして画面を見るのは避け、配偶者に見せてもらうか、弁護士に取り寄せ方を相談します。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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