配偶者と不倫相手の両方に慰謝料を請求できる?連帯の考え方と二重取りの線
配偶者と不倫相手の両方に慰謝料を請求することはできます。民法719条が、共同で不法行為をした人は「各自が連帯して」損害を賠償する責任を負うと定めているからです。ただし、損害そのものは一つなので、両方から全額ずつ受け取る「二重取り」はできません。一方から受け取った分は、もう一方に請求できる額から差し引かれる、というのが連帯の基本の考え方です。自分の場合にいくら残っているかは、受け取った額と取り決めの書面を持って弁護士に確かめてください。
両方に請求できる理由と、全額ずつ受け取れない理由
慰謝料は、民法709条(不法行為による損害賠償)と710条(財産以外の損害の賠償)の仕組みで考えます。最高裁昭和54年3月30日判決は、配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、誘惑したかどうかや自然な愛情からの関係かどうかにかかわらず、もう一方の配偶者の精神的苦痛を慰謝する義務があると判断しました。不倫をした配偶者本人も、同じ不倫行為の当事者として、責任を問われる立場にあります。
この二人の関係を定めるのが民法719条1項です。
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。(民法719条1項)
「連帯して」とは、請求する側から見て、どちらに対しても損害の全部の賠償を求めうる、という意味です。配偶者に全部を求めても、不倫相手に全部を求めても、両方に分けて求めてもかまいません。一方で、賠償の目的は「生じた損害」を埋めることなので(709条)、合計で損害の額を超えて受け取ることはできません。
| 場面 | 請求できること | 受け取れる合計 |
|---|---|---|
| 配偶者にだけ請求 | 損害の全部 | 損害の額まで |
| 不倫相手にだけ請求 | 損害の全部 | 損害の額まで |
| 両方に請求 | どちらにも全部を求めうる | 二人から受け取った合計で損害の額まで |
| 一方から一部を受け取った後 | 残りをもう一方に | 受け取った分は差し引かれる |
| ※「損害の額」は話し合い・調停・裁判で決まる額で、あらかじめ決まった数字はない |
仕組みの全体は不貞行為の慰謝料の仕組み:民法の条文と最高裁の考え方で整理しています。
配偶者と不倫相手で「請求できる中身」が違う
「両方に請求できる」といっても、二人に求められることがまったく同じとは限りません。違いが出やすいのは次の3点です。
離婚に伴う慰謝料は、原則として配偶者に
最高裁平成31年2月19日判決は、不倫相手に「夫婦を離婚させたこと」を理由とする離婚に伴う慰謝料は、特段の事情がない限り請求できないと判断しました。特段の事情とは、夫婦を離婚させる意図で婚姻関係に不当な干渉をして離婚のやむなきに至らせた、と評価される事情です。判決は、不倫行為そのものを理由とする責任は別だとしています。つまり、不倫相手に求められるのは原則として不倫行為そのものの慰謝料で、離婚に伴う慰謝料は配偶者に求めるもの、という分かれ方です。言葉の違いは離婚の慰謝料とは?不倫の慰謝料との違いで扱います。
婚姻関係が破綻した後なら、不倫相手は原則として責任を負わない
最高裁平成8年3月26日判決は、肉体関係を持った当時に夫婦の婚姻関係がすでに破綻していたときは、特段の事情のない限り、第三者は責任を負わないとしました。不倫相手から「夫婦はもう破綻していた」という反論が出ることがあり、配偶者への請求とは争点の形が変わります。破綻の考え方は「婚姻関係の破綻」とは?浮気と慰謝料・離婚で問題になる場面へ。
時効の進み方が違う
不法行為の請求権は、損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効にかかります(民法724条)。ただ、夫婦の一方が他方に対して持つ権利は、婚姻の解消の時から6か月を経過するまでは時効が完成しないと定められています(民法159条)。この決まりは配偶者への請求だけの話で、不倫相手への請求には及びません。婚姻中に配偶者への請求を後回しにしていても、不倫相手への請求の期限は別に進むことになります。
| 比べる点 | 配偶者 | 不倫相手 |
|---|---|---|
| 不倫行為そのものの慰謝料 | 請求の対象になりうる | 故意又は過失があれば対象になりうる |
| 離婚に伴う慰謝料 | 対象になりうる | 特段の事情がない限り請求できない(平成31年判決) |
| 婚姻関係の破綻後の関係 | 個別の事情による | 原則として責任を負わない(平成8年判決) |
| 時効の特例 | 婚姻解消から6か月は完成しない(159条) | 特例なし(724条どおり) |
両方に請求するときの進め方:順番と書面で気をつけること
両方に請求すると決めたら、順番と書面の作り方で、後から受け取れる額が変わってしまうことがあります。次の流れで整理しておきます。
- 知った日を記録する:不倫と不倫相手を知った日を、メモと証拠の日付で残す(724条の3年の起点に関わる)
- 誰に何を求めるかを分ける:配偶者には離婚に伴う分も含めるのか、不倫相手には不倫行為そのものの分だけか
- 先に話がまとまりそうな相手を見る:配偶者と話し合いが進んでいるのか、不倫相手が連絡に応じるのか
- 一方と書面を交わす前に、文言を確かめる:示談書に「これ以外に請求しない」という清算の文言や、もう一方への請求に触れる条項が入ると、残りの請求に影響しうる
- 受け取った額を記録する:いつ、誰から、何の名目でいくら受け取ったか
特に4は見落とされがちです。配偶者と「今回の件はこれで解決」と書いた書面が、不倫相手への請求との関係でどう読まれるかは、文言と事情によって判断が分かれます。示談書の項目は不倫の示談書の書き方:入れる条項の例、不倫相手から求償権を放棄する条項を求められた場合は求償権の放棄とは?示談で放棄を求められたときに確かめることにまとめています。
確かめるときの聞き方の例:「配偶者とはこの書面で示談しました。不倫相手にはまだ請求していません。この書面のままで、不倫相手に残りを請求できる形になっているか見てください」
「求償」と、離婚しない夫婦で起きること
連帯して責任を負う二人の間では、払った側がもう一方に負担分を求める「求償」が問題になります。求償は719条には書かれておらず、判例と解釈で考えられている話なので、負担割合の考え方は不倫の求償権とは?配偶者と不倫相手の負担割合の考え方で別に扱います。
ここで押さえておきたいのは、離婚せずに夫婦を続ける場合です。不倫相手だけに請求して受け取っても、不倫相手が配偶者に求償すれば、その分は配偶者、つまり同じ家計から出ていくことになりえます。逆に配偶者から受け取る場合も、同じ家計の中でお金が動くだけになりやすい点は同じです。離婚しない場合の考え方は不倫の慰謝料は離婚しない場合も請求できる?で整理しています。
ダブル不倫で、自分の配偶者と相手の配偶者がそれぞれ請求し合う形になると、この構図はさらに複雑になります。ダブル不倫の慰謝料はどうなる?も参考にしてください。
受け取った慰謝料に税金がかかるかは慰謝料に税金はかかる?受け取る側・払う側の扱いと国税庁の説明で、金額の情報の読み方は次の記事不倫慰謝料の相場に公的な基準はある?ネットの金額を読む7つの確認点で扱います。夫の浮気なら夫の浮気で慰謝料を請求したい妻へ、妻の浮気なら妻の浮気で慰謝料を請求したい夫へが、請求の前に決めることの入口になります。請求の前に全体を見ておきたいときは、浮気・不倫の慰謝料とは?請求できる場面・金額の決まり方・進め方の全体像から読むと流れがつかめます。
よくある質問
Q. 配偶者から先に慰謝料を受け取ったあと、不倫相手にも請求できますか?
請求すること自体はできますが、配偶者から受け取った分は、不倫行為による損害の埋め合わせとして数えられます。損害の額を超えて受け取ることはできないので、残りがあるかどうかが問題になります。配偶者と何を取り決めたか(示談書の清算の文言など)も影響しうるので、書面を持って弁護士に確かめてください。
Q. 不倫相手だけに請求して、配偶者には請求しないことはできますか?
できます。民法719条の連帯は、請求する側がどちらにどれだけ求めるかを選べるという意味で、両方に請求しなければならない決まりはありません。ただ、不倫相手が払った後に、配偶者に負担を求める「求償」が起きることがあり、離婚しない夫婦では家計に戻ってくる形になる点は考えておきたいところです。
Q. 配偶者と不倫相手の両方を一つの裁判で訴えられますか?
民事訴訟法38条は、権利や義務が同一の事実上・法律上の原因に基づくときは、数人を共同訴訟人として訴えることができると定めています。離婚の裁判とあわせる場合は、人事訴訟法17条で離婚の原因となった事実による損害賠償を家庭裁判所で一緒に審理できる仕組みがあり、不倫相手の分が当たるかは事案ごとの判断です。進め方は弁護士に相談してください。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第709条・第710条・第719条・第724条・第159条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民事訴訟法 第38条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 人事訴訟法 第17条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 最高裁昭和54年3月30日判決(不貞の相手方の責任)(裁判所)
- 最高裁平成8年3月26日判決(婚姻関係破綻後の関係)(裁判所)
- 最高裁平成31年2月19日判決(不貞相手への離婚に伴う慰謝料)(裁判所)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。