離婚で慰謝料なしになるのはどんな場合?性格の不一致などとの違い
離婚で慰謝料が問題にならないのは、離婚の原因が、どちらか一方の違法な行為とは言いにくい場合です。慰謝料は「離婚したら払うお金」ではなく、相手の違法な行為で受けた精神的苦痛の賠償なので、性格の不一致や価値観の違いのように、夫婦のどちらかが一方的に相手の権利を侵害したとは言いにくい原因では、慰謝料なしで離婚することが多くなります。反対に、不倫や暴力が原因の離婚では慰謝料が問題になりやすくなります。ただし不倫があっても、婚姻関係の状態や時効、合意の内容によって、慰謝料なしになる場面があります。
慰謝料は「離婚したら払うお金」ではない
慰謝料の根拠は、民法709条(故意・過失で他人の権利を侵害した人の賠償責任)と710条(財産以外の損害の賠償)です。裁判所の慰謝料請求調停のページも、慰謝料を相手方の不法行為によって被った精神的苦痛を慰謝するための損害賠償と説明し、相手方の行為によって離婚せざるを得なくなったような場合などに請求できる、としています。
離婚そのものには、慰謝料の支払いは条件になっていません。協議離婚について民法763条は「夫婦は、その協議で、離婚をすることができる」と定めるだけで、理由も慰謝料も求めていません。離婚のときに動くお金には、慰謝料のほかにも性質の違うものがあり、混同すると「慰謝料なし」で合意したつもりが、ほかの取り分まで手放すことになりかねません。
| お金の種類 | 根拠 | どちらかの責任が前提か |
|---|---|---|
| 慰謝料 | 民法709条・710条 | 前提になる(違法な行為があったか) |
| 財産分与 | 民法768条 | 前提ではない(婚姻中の財産を分ける) |
| 養育費 | 民法766条 | 前提ではない(子の監護の費用) |
| 婚姻費用 | 民法760条 | 前提ではない(離婚までの生活費) |
財産分与・養育費は、慰謝料がなくても話し合う必要がある項目です。財産分与の基本は財産分与とは?対象・割合・請求の期限の基本で整理しています。
離婚の原因ごとに見る:慰謝料が問題になりやすい場合・なりにくい場合
家庭裁判所に婚姻関係の調停などを申し立てた人が挙げた動機(司法統計年報 家事編 令和7年 第19表)を見ると、夫が申し立てた15,355件で最も多いのは「性格が合わない」の9,004件、妻が申し立てた42,136件でも「性格が合わない」の15,646件が最多でした。動機は1件につき3個まで重複して数えた集計で、裁判所を使わない協議離婚は含みません。それでも、慰謝料が問題になりにくい原因で離婚に向かう夫婦が少なくないことがうかがえます。
| 離婚の原因 | 慰謝料が問題になるか | 理由の考え方 |
|---|---|---|
| 不倫(不貞行為) | なりやすい | 民法770条1項1号が離婚の理由に挙げる行為で、昭和54年の最高裁判決も相手の権利の侵害と判断している |
| 暴力・DV | なりやすい | 身体や心を傷つける行為そのものが不法行為になりうる |
| 生活費を渡さない・一方的に家を出た | なりうる | 民法770条1項2号の「悪意で遺棄」に当たるかが問われる |
| 暴言・人格を否定する言動 | 内容と程度による | 記録で行為の中身を示せるかが分かれ目になる |
| 性格の不一致・価値観の違い | なりにくい | どちらか一方の違法な行為とは言いにくい |
| 親族との不和 | なりにくいことが多い | 配偶者自身の行為がどう関わったかによる |
| 配偶者の病気 | なりにくい | 病気になること自体は違法な行為ではない |
表は一般的な目安で、実際は複数の原因が重なっていることがほとんどです。性格の不一致が表向きの理由でも、その裏に暴言や生活費の問題がある場合は、慰謝料が問題になる余地があります。暴力がある場合は、慰謝料より先に安全を確保してください(DVがあった離婚の慰謝料:安全を先にした進め方と相談先)。別居が「悪意の遺棄」に当たるかは別居は悪意の遺棄に当たる?で扱っています。
なお、2026年4月1日施行の民法改正で、770条1項から旧4号の「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」は削除されました。古い解説の「770条1項5号」は、今は4号「その他婚姻を継続し難い重大な事由」です。
不倫があっても慰謝料なしになりうる場面
不倫が原因の離婚でも、次のような事情があると、慰謝料が認められなかったり、請求しないまま終わったりします。
- 関係が始まった当時、婚姻関係がすでに破綻していた:最高裁平成8年3月26日判決は、婚姻関係が既に破綻していたときは、特段の事情のない限り不倫相手は責任を負わないと判断しました。破綻していたかは事実関係で判断され、「別居していれば破綻」という線はありません(「婚姻関係の破綻」とは?)。
- 不倫相手に故意・過失がない:昭和54年判決は、不倫相手の責任の前提に故意または過失を置いています。既婚と知らず、知ることもできなかった事情があれば、不倫相手の責任は否定される余地があります(不倫相手が「既婚者と知らなかった」と言うとき)。
- 時効にかかった:損害と相手を知った時から3年、不法行為の時から20年(民法724条)。配偶者への請求は、婚姻の解消から6か月を過ぎるまで時効が完成しない(民法159条)。
- 合意で慰謝料を求めないと決めた:示談(和解)で決めたことは、後から反対の証拠が出ても原則として覆らない(民法695条・696条)。
- 証拠がなく相手が否定した:請求はできても、裁判では事実を示す材料が問われる(浮気の証拠なしでも慰謝料は請求できる?)。
1と2は、相手側から反論として出されることが多い事情です。自分の場合に当てはまりそうかは、時系列の記録を持って弁護士に確かめてください。
慰謝料なしで離婚するときに確かめること
話し合いで「慰謝料はなし」と決めて離婚する場合でも、書面の作り方によって、後から困ることがあります。署名する前に、次の点を確かめておきます。
- 何を清算するのか:離婚協議書の清算条項が「この書面に定めるほか債権債務はない」となっていると、後で不倫が分かっても請求しにくくなる。知らないことまで清算してよいかを考える
- 財産分与・養育費を決めたか:慰謝料と別に話し合う。財産分与には請求できる期間があり、2026年4月1日以後の離婚と、それより前の離婚とで長さが違う(詳しくは離婚の法改正2026年4月施行の変更点)
- 相手から慰謝料を求められていないか:自分が「なし」のつもりでも、相手が別の理由で求めてくる場合は、書面で理由を確かめる
- 書面に残したか:口約束で終わらせず、離婚協議書や公正証書にする(離婚協議書の書き方)
書面で確かめる言葉の例:「今回の離婚について、お互いに慰謝料は請求しないということでよいか、協議書に書いておきたい。財産分与と養育費は、別の項目として決めさせてほしい。」
一方、不倫などで慰謝料を求めると決めた場合の進め方は、次の記事不倫慰謝料の請求方法:話し合い・内容証明・調停・訴訟の流れで順に説明します。離婚しないまま慰謝料を考える場合は、前の記事不倫の慰謝料は離婚しない場合も請求できる?を参考にしてください。
よくある質問
Q. 性格の不一致で離婚を切り出したら、相手から慰謝料を払うよう言われました。払う必要はありますか?
慰謝料は、相手の違法な行為で受けた精神的苦痛の賠償なので、離婚を言い出した側が払うものと決まっているわけではありません。ただ、相手が「性格の不一致」以外の事情(暴言や生活費を渡さないことなど)を理由に挙げている可能性もあります。相手が何を理由に求めているのかを書面で確かめ、払うかどうかを決める前に弁護士に相談してください。
Q. 慰謝料なしで離婚したあとに、相手の不倫が分かりました。もう請求できませんか?
離婚の時に交わした書面に、どの範囲の請求を清算するとした条項があるかで考え方が変わります。また、損害と相手を知った時から3年という時効もあります。経緯と書面を持って弁護士に相談してください。考え方は[離婚後に不倫が発覚したら慰謝料は請求できる?](/rikongo-hakkaku-isharyo/)で整理しています。
Q. 財産分与を多めにもらう代わりに、慰謝料はなしにしてもいいですか?
当事者の話し合いで、そうした形にまとめることはできます。ただ、財産分与と慰謝料は根拠の違う別の制度なので、書面には「慰謝料を含む」のか「慰謝料はなし」なのかを分けて書いておかないと、後で何を清算したのかが争いになりかねません。不動産を渡す場合などは税金がかかることもあるので、合意の前に弁護士や税理士に確かめてください。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第159条・第695条・第696条・第709条・第710条・第724条・第760条・第763条・第766条・第768条・第770条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 慰謝料請求調停(離婚後の紛争調整)(裁判所)
- 司法統計年報(家事編)令和7年 第19表(最高裁判所)
- 最高裁平成8年3月26日判決 判決全文(裁判所)
- 最高裁昭和54年3月30日判決 判決全文(裁判所)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。