養育費を払わない相手には:先取特権・強制執行と相談先の使い分け
この記事のもくじ
養育費が払われないときに使える手段は、取り決めの形で決まります。調停調書・審判書・公正証書(強制執行認諾あり)があれば、裁判を起こさずに給料や預金の差押えへ進めます。父母で交わした合意書面だけなら、2026年4月以後に生じた分について先取特権(月8万円×子の数が上限)が使えます。全額を取り立てたいなら、新たに調停を申し立てる道になります。口約束だけで書面がないと、先取特権に必要な文書がないので、まず書面にすることから始めます。手段をいくつか重ねて使うこともできるので、この記事では、状況別の使い分けと、差押えまでの手順、相談先を示します。
最初に確かめる3点:取り決めの形・日付・相手の勤務先
手段を選ぶ前に、次の3つを手元で確認します。
- 取り決めの形:調停調書、審判書、公正証書(強制執行を認める旨が書いてあるか)、父母で交わした合意書、口約束のどれか。
- 日付:離婚の日と、養育費を取り決めた日が、2026年4月1日の前か後か。先取特権や法定養育費の担保権実行は、2026年4月1日以降が条件になります。
- 相手の勤務先・預金口座:分かっていれば差押えを申し立てやすく、分からない場合は後述のワンストップ執行手続を使います。
| 取り決めの形 | 使える主な手段 | 注意点 |
|---|---|---|
| 調停調書・審判書・人事訴訟の判決や和解調書 | 履行勧告、給料等の差押え(取り決めた養育費の全額)、先取特権、間接強制 | 履行勧告は無料だが、強制力はない |
| 公正証書(強制執行認諾あり) | 給料等の差押え、先取特権 | 履行勧告は、公正証書など当事者間の合意による取り決めを対象にしない |
| 父母の合意書面だけ(私文書) | 先取特権(2026年4月1日以降に発生した養育費。上限あり)。全額を取り立てるなら調停を申し立てて調停調書を得る | 作成者の意思に基づくことを示す追加資料を求められることがある |
| 取り決めなし・2026年4月1日以後に離婚 | 法定養育費の担保権実行(子1人あたり月2万円×子の数)。あわせて養育費請求調停 | 取り決めまでのつなぎの額 |
| 取り決めなし・2026年3月31日以前に離婚 | 養育費請求調停→審判 | 法定養育費は発生しない |
払われないときの手段:何ができて、何ができないか
裁判所の「養育費に関する手続」のページは、支払を求める手続として、履行勧告、債権執行等(養育費等に基づく差押え)、債務名義に基づく強制執行、先取特権に基づく担保権実行、ワンストップ執行手続、間接強制を並べています。
- 履行勧告:調停・審判・人事訴訟で決めた取り決めを守らない相手に、家庭裁判所が履行を勧告する手続です。書面・口頭・電話で申し出ることができ、費用は無料です。ただし相手が応じなくても強制することはできません。
- 給料・預金の差押え(債権執行):調停調書や公正証書などの債務名義があれば、取り決めた養育費の全額を対象に、債務者の住所地を管轄する地方裁判所へ申し立てます。手数料は原則4,000円と郵便料です。給料は、手取額の2分の1が上限(手取額が66万円を超えるときは33万円を除いた額)で、一般の金銭債権の4分の1より多く差し押さえられます。
- 将来分の差押え:民事執行法151条の2により、養育費のような定期金債権は、一部に不履行があれば、まだ支払期限が来ていない分についても、給料などの債権執行を開始できます。
- 先取特権に基づく担保権実行:2026年4月1日以降に発生した養育費について、月額8万円に子の数を乗じた額を上限として、原則として他の債権者より優先して回収できる手続です。8万円は取り立てできる額の上限で、養育費の額の上限ではありません。
- 間接強制:支払をしない相手に、一定期間内に払わなければ別に間接強制金を課すと決定で警告し、自発的な支払を促す手続です。調停・審判をした家庭裁判所に申し立て、収入印紙2,000円と郵便切手が必要です。支払能力がない場合は決定されないこともあり、払わない相手には別に直接の差押えが必要になることがあります。
| 手段 | 申立先 | 主な実費 | 強制力 |
|---|---|---|---|
| 履行勧告 | 取り決めをした家庭裁判所 | 無料 | なし |
| 給料等の差押え | 債務者の住所地の地方裁判所 | 手数料4,000円(原則)+郵便料 | あり(債務名義が必要) |
| 先取特権の担保権実行 | 同上 | 同上(債務名義と同時に申し立てる場合、差押命令事件は8,000円) | あり(月8万円×子の数が上限) |
| 間接強制 | 調停・審判をした家庭裁判所 | 収入印紙2,000円+郵便切手 | 心理的圧迫。別に差押えが必要なことがある |
給料を差し押さえるまでの手順と、勤務先が分からないとき
差押えは、債務名義(または先取特権の文書)をそろえ、相手の住所地の地方裁判所へ申し立て、差押命令が勤務先に届いてから1週間後に取り立てる流れです。手数料は原則4,000円と郵便料です。勤務先や口座が分からないときは、財産開示手続や第三者からの情報取得を使うワンストップ執行手続があります。書類の一覧と順番、手続ごとの費用は、養育費の強制執行の流れ:給与の差押えの手続きと必要な書類の一覧を正本にしています。先取特権の対象や上限は離婚の法改正2026年4月施行:共同親権・法定養育費・財産分与の変更点で確かめられます。申立書の書き方や手続の代理は、弁護士の仕事です。
払わない相手に最初に送る連絡:事実・金額・期限だけを書く
手段を選ぶ前に、払われていない事実を書面で示しておくと、履行勧告の申出や差押えの準備に使えます。文面は感情を入れず、取り決めの根拠・未払いの月と額・支払期限に絞ります。
文例:「2026年○月○日の調停調書(または公正証書)で定めた養育費(月○万円、毎月○日払い)について、○月分から○月分までの合計○万円が支払われていません。○月○日までにお支払いください。お支払いがない場合は、家庭裁判所への履行勧告の申出や強制執行の手続を検討します。」
LINEやメールでも日付が残ります。相手が「払えない事情」を返してきたら、収入が分かる資料を出してもらい、減額を合意するなら額と開始時期を書面に残します。取り決めがない期間の分は、まず請求の意思を示した日を残します(養育費はさかのぼって請求できる?取り決めなしの離婚の過去分と請求日の残し方)。
回収を急ぐ順番:判断表
どこから動くかは、書面の有無と、相手の勤務先が分かっているかで決まります。
| 状況 | 先にすること | 次にすること |
|---|---|---|
| 調停調書・審判書・公正証書があり、勤務先が分かる | 給料の差押え(将来分も対象) | 履行勧告は並行でもよい。無料だが強制力はない |
| 書面はあるが、勤務先も口座も分からない | ワンストップ執行手続で情報を得る | 勤務先が分かったら差押えへ |
| 父母の合意書面だけ | 先取特権の担保権実行(2026年4月1日以後の分) | 全額を取り立てるなら調停を申し立てる |
| 口約束だけ・取り決めなし | 請求の意思を書面で残す | 養育費請求調停を申し立てる |
| 相手に支払能力がなさそう | 履行勧告・間接強制の前に収入資料を求める | 相手の親への請求は養育費を相手の親に請求できる?祖父母の扶養義務の考え方と限界で考え方を確かめる |
相談先の使い分け:どこに何を聞くか
払われない状況が続くと、誰に何を聞けばよいかが分からなくなります。次のように使い分けます。
- 養育費・親子交流相談支援センター:養育費や親子交流の取り決め、手続を、電話やメールで相談できる専門の窓口です。こども家庭庁の案内は、電話とメールで受けていると説明しています。個別の法律判断や代理は、下の弁護士の項を確かめてください。電話番号と受付時間は浮気・不倫の相談先一覧:悩み別の窓口と番号・受付時間の早見表にまとめています。
- 家庭裁判所:履行勧告の申出、調停の申立て方を手続の面から案内します(家庭裁判所の手続案内とは?調停の申立て方を無料で聞ける窓口)。
- お住まいの自治体:こども家庭庁の案内によると、自治体によっては、公正証書等の取得支援、養育費の保証契約支援、弁護士等による個別相談を行っています。
- 法テラス・弁護士:差押えの申立て、相手との交渉、取り決めの見直しを代理で進めたいときの相談先です。費用の立替えなどの制度は法テラスで離婚の相談をするには:無料相談と費用の立替えの条件で説明しています。
払わない相手に対して、督促のつもりで相手の勤務先や親族へ繰り返し連絡したり、インターネットで相手の名前を晒したりすると、名誉毀損や脅迫などの問題に発展するおそれがあります。差押えで勤務先へ連絡が行く手続は、裁判所を通して行われます。また、相手が暴力や脅しに及ぶおそれがあるときは、督促の方法より安全を先に考えてください(不倫で脅迫されたとき:110番と#9110の使い分けと最初にすること)。
「養育費を払わないなら子どもに会わせない」と考える人もいますが、養育費と親子交流は別の問題として扱われます。考え方は養育費を払わないなら面会させない?養育費と親子交流の関係で説明しています。取り決めの終わりの時期は養育費はいつまで?20歳・大学卒業など終わりの決め方、全体の仕組みは養育費とは?決め方・算定表・2026年からの法定養育費までにあります。
よくある質問
Q. 養育費の取り決めが口約束だけでも、先取特権で差押えはできますか?
裁判所のページは、先取特権に基づく担保権実行で使える「担保権を証する文書」に、調停調書や審判書、公正証書のほか、父母の合意書面も挙げています。ただし口約束だけでは文書がなく、合意書面の場合は作成者の意思に基づくことを示す追加資料を求められることがあります。2026年4月1日以降に発生した養育費の分に限られ、申立てが認められるかは裁判所の審査によります。
Q. 払われない養育費は、離婚後にどこまでさかのぼって請求できますか?
時効や取り決めの形で変わります。取り決めがあって払われていない分の考え方は[養育費の時効:取り決めの形で変わる期間と未払い分の考え方](/yoikuhi-jikou/)で、取り決めがない期間の分は[養育費はさかのぼって請求できる?取り決めなしの離婚の過去分と請求日の残し方](/yoikuhi-sakanoboru/)で説明しています。
出典・参考にした公的な情報
- 養育費に関する手続(支払を求める手続の入口)(裁判所)
- 債権執行(養育費に基づく差押え)(裁判所)
- 養育費等のワンストップ執行手続(財産開示)(裁判所)
- 養育費等のワンストップ執行手続(第三者からの情報取得)(裁判所)
- 履行勧告(裁判所)
- 間接強制(裁判所)
- 民法 第306条・第308条の2・第766条の3(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民事執行法 第22条・第151条の2・第152条・第167条の15(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について〔令和8年4月1日施行〕(法務省)
- ひとり親家庭等の相談窓口(養育費・親子交流の相談)(こども家庭庁)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。