夫の浮気で慰謝料を請求したい妻へ:請求の前に決める相手・目的・時期
この記事のもくじ
夫の浮気で慰謝料を請求したいとき、最初に決めるのは金額ではなく、誰に(夫か、不倫相手か、両方か)・何のために・いつ請求するかの3つです。この3つで、使う手続や、離婚・生活費の話との順番が変わります。配偶者と不倫相手の両方が請求の相手になりえますが、相手によって受け取れる慰謝料の種類や期限の数え方が違います。ここでは、妻の立場で動き出す前の整理を順番に示します。
夫の浮気の慰謝料:請求の前に決める3つのこと
慰謝料の請求は、一度始めると相手との関係や家計に響きます。始める前に、次の表を自分の言葉で埋めてみてください。空欄が残る項目が、弁護士に相談するときの質問になります。
| 決めること | 選択肢 | 判断の材料 | 自分の答え |
|---|---|---|---|
| ① 誰に | 夫/不倫相手/両方 | 離婚するか、家計が同じか、不倫相手が既婚と知っていたか | |
| ② 何のために | 謝罪/関係を終わらせる/お金/離婚条件の一部 | いちばん得たいものは何か、得たくないものは何か | |
| ③ いつ | 今すぐ/離婚の話と一緒に/離婚後 | 時効、証拠のそろい具合、生活費の見通し | |
| ④ どう進めるか | 話し合い/書面/調停/訴訟 | 相手が応じるか、顔を合わせられるか |
この順番で考える理由は、①と②が決まらないと③と④を選べないからです。たとえば「夫との生活は続けたい、不倫関係だけは終わらせたい」が目的なら、夫ではなく不倫相手への請求と、接触しない約束を中心に考えることになります。「離婚して子どもと暮らす生活を立て直したい」が目的なら、慰謝料は財産分与や養育費と並ぶ離婚条件の一つとして、まとめて話し合うことになります。
誰に請求するか:夫・不倫相手・両方の違い
不倫は、夫と不倫相手の二人がした行為です。民法719条1項は、共同の不法行為で損害を加えた数人は連帯して賠償すると定めており、妻は夫にも不倫相手にも請求を考えられます。ただし、二人から重ねて損害の全額を受け取れるわけではありません。両方への請求の線は配偶者と不倫相手の両方に慰謝料を請求できるかの記事で扱います。
| 請求の相手 | 考えておくこと | 関係する条文・判断 |
|---|---|---|
| 夫 | 離婚しないなら、同じ家計の中でお金が移るだけになりやすい。離婚するなら、離婚条件の一つとして決められる | 民法709条・710条 |
| 不倫相手 | 既婚と知っていたか、知ることができたか(故意・過失)が問われる。夫婦を離婚させたことの慰謝料は、特段の事情がない限り請求できない | 最高裁昭和54年判決、平成31年判決 |
| 両方 | 受け取れるのは損害の分まで。どちらかが払うと、もう一方の支払いにも影響する | 民法719条1項 |
不倫相手への請求で押さえたいのが、最高裁平成31年2月19日判決です。不倫相手に請求できるのは原則として不貞行為そのものの慰謝料で、「離婚させられたこと」の慰謝料は、離婚させる意図で不当に干渉したなどの特段の事情がない限り請求できないとされました。この判決が扱うのは不倫相手への請求です。夫への請求は別に考えます。違いは離婚の慰謝料と不倫の慰謝料の違いの記事、不倫相手だけを相手にする考え方は不倫相手に慰謝料を請求するときの記事にあります。
何のために請求するか:お金だけが目的ではない
慰謝料はお金の請求ですが、請求する妻の目的はお金だけとは限りません。目的によって、話し合いで求める中身が変わります。
- 謝罪してほしい:お金の支払いと謝罪は別のものです。謝罪の文面を示談書に入れるかどうかを決めておきます。
- 関係を終わらせたい:不倫相手に接触しないことを約束してもらう条項を考えます。決め方は示談書の接触禁止条項の記事へ。
- お金で区切りをつけたい:金額だけでなく、一括か分割か、払われないときにどうするかまで決めておきます。
- 離婚の条件を整えたい:慰謝料だけを先に争うより、生活費・養育費・財産分与と並べて全体で考えます。
注意したいのは、離婚しない場合の夫への請求です。家計が一つなら、夫から受け取ったお金は家族のお金から出ていきます。それでも請求するかどうかは離婚しない場合の不倫の慰謝料の記事で考え方を整理しています。不倫相手から払われた後に、不倫相手が夫に負担の分担を求めてくる話(求償)が出ることもあり、不倫の求償権の記事で扱います。
いつ請求するか:時効と生活費の順番
時期を決めるときは、期限と生活の両方を見ます。期限の基本は民法724条で、損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効により消滅します。不倫相手の名前や住所が分からないうちは「加害者を知った」と言えるかが問題になることがあるので、名前が分かった時期をメモしておきます。
夫に対する請求には、民法159条の特別な定めがあります。夫婦の一方が他方に対して持つ権利は、婚姻の解消の時から6か月を経過するまで時効が完成しません。離婚の話し合いが長引いても夫への請求の期限はすぐには来ませんが、不倫相手への請求にはこの定めは及びません。期限の数え方は不倫の慰謝料の時効の記事を読んでください。
生活費の順番も大切です。別居や離婚を考えるなら、慰謝料より先に、別居中の生活費(婚姻費用。民法760条)を確保する道を考えます。慰謝料の話し合いは時間がかかることがあり、その間の生活が先に苦しくなるからです。
| 時期 | 向いている場面 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 今すぐ | 不倫相手との関係をすぐに終わらせたい | 証拠が足りないと、相手に否定されて話が止まる |
| 離婚の話と一緒に | 離婚を決めている、または迷っている | 夫婦関係調整調停(離婚)の中で慰謝料も話し合える |
| 離婚の後 | 先に離婚を成立させたい | 元夫には慰謝料請求調停を使える(離婚後の元配偶者間の手続)。婚姻の解消から6か月で民法159条の保護は終わる。不倫相手は3年の期限に注意 |
動き出す前の準備と相談先
3つを決めたら、手元の資料をそろえます。何が証拠になるかは慰謝料請求の証拠をそろえる手順の記事にまとめています。夫のスマホへの無断ログインなど、禁じる法律がある方法で集めないことが前提です。
慰謝料をいくら求めるか、請求が通る見込みがあるかの判断と、相手との交渉は弁護士の仕事です。相談のときは、上の整理シート、浮気が分かった経緯の時系列、婚姻期間と子どもの年齢、家計の状況を持っていきます。請求の流れは不倫慰謝料の請求方法の記事、全体の地図は浮気・不倫の慰謝料とは?請求できる場面・金額の決まり方・進め方の全体像にあります。
夫が浮気を問い詰めた妻に暴力をふるう、脅すといった危険があるときは、慰謝料の話より安全を先にしてください。窓口は浮気・不倫の相談先一覧にまとめています。妻の浮気で悩む夫の側の整理は妻の浮気で慰謝料を請求したい夫への記事へ続きます。
よくある質問
Q. 夫の浮気の慰謝料は、離婚しないと請求できないのですか?
離婚しなくても請求すること自体はできます。ただ、夫に請求すると同じ家計の中でお金が動くだけになりやすいので、離婚しない妻は不倫相手への請求を考えることが多くなります。家計と目的を書き出してから、誰に請求するかを決めてください。
Q. 夫の不倫相手の名前しか分からないとき、慰謝料は請求できますか?
請求する権利と、相手の住所を知っているかは別の話です。ただ、書面を送るにも調停や訴えを起こすにも、相手の住所が要ります。自分で調べ回ると別のトラブルになりやすいので、使える正当な手段を先に確かめます。
Q. 離婚の話し合いが長引いても、夫への慰謝料の時効は進みますか?
民法159条は、夫婦の一方が他方に持つ権利は、婚姻が解消した時から6か月を過ぎるまで時効が完成しないと定めています。これは夫に対する請求の話で、不倫相手への請求には及びません。不倫相手については、損害と相手を知った時から3年という期限を別に気にかけておきます。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第159条・第709条・第710条・第719条・第724条・第760条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 最高裁判所 平成31年2月19日 第三小法廷判決(裁判所)
- 最高裁判所 昭和54年3月30日 第二小法廷判決(裁判所)
- 慰謝料請求調停(裁判所)(裁判所)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。